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[対談]本気のススメ!板野博行×木村達哉

  • [対談]本気のススメ!板野博行×木村達哉

大学へのモチベーションが上がらない人、受験勉強への疑問を悶々と感じている人、煮え切らない思いで机に向かうのはやめて受験指導のプロたちの声に耳を傾けてみよう。きっと、この1年間を乗り切るカギがつかめるはずだ。

「他の道」について考える

板野
大学に行くために、なぜ苦しい思いをして受験勉強をしないといけないのか…と、釈然としない思いを抱えている受験生も多いでしょう。そんな受験生の声に対して、木村先生はどのように答えていますか?

木村
まず、必ずしも大学に行かなあかんわけではない、と答えていますね。他の道だってある。ただ、人間というのは何かに向かって頑張るしかなくて、大学に入りたいという強い思いがあるなら、勉強するしかないやろうと。

板野
なるほど。僕の場合は、勉強をして大学へ行く以外に道はない、と答えています。木村先生は「他の道がある」と言われましたが、例えばスポーツ選手や料理人や職人や、そういった専門的な道は、進路を決めるときになって悩み出した多くの人にとっては「ない」んですね。厳しい言い方をすると、「ある」と勘違いしている。今、目の前にある勉強からの逃げ道である可能性が高いと思うんです。

木村
うちの学校の卒業生でも、落語家になったりピアニストになったりした子はいるんですよ。「なんで大学に行くんやろう?」と考えるっていうのは、一つのチャンスではないかと思う。今の世の中は大学行くのが当たり前みたいに思ってる人が多いけど、他の選択肢だってあるということに気づくチャンス。もちろん、その道を極めることの方が大変なことは、教師として伝えないといけないとは思っています。実際は、ただしんどいことから逃げたいだけの生徒も少なくないですからね(笑)。

板野
逃げたくなる気持ちはわかりますが、勉強をすること自体が、今の自分を乗り越えて人生を切り拓くことにつながるのだから、他の選択肢はない、やるしかない、と生徒には話しています。勉強は仕事なんですよね。社会に出れば、嫌な仕事もやらなければならない。そういう意味で、勉強ができる人間、つまり嫌なことにも取り組める人間を採用するという企業の方針は、理に適っていると思います。

木村
生き方や進路は右向け右じゃないけど、この年齢になって思うのは、大学に行くっていうのはある意味では一番ラクな道ではないかということですよね。「大事なのは勉強じゃないんだ!」みたいな、勉強を無味乾燥なものとして扱う風潮は良くないと思うんです。一生懸命勉強することだって、ものすごく素晴らしいことなんですから。

「やる気」ってなんだろう?

板野
予備校は受験技術を学びに行くための場と思われがちですが、実際はユニークな雑談で有名な講師や人生論を語るような講師が多いんですよね。でも、生徒はその一見余分なものに刺激を得て、モチベーションを高めている。彼らに足りないのは、勉強するエネルギーではなく、何で勉強しないといけないかという根本なんです。そこをどう刺激してやるかですね。

木村
まったく同感です。僕の授業は雑談が多いことで有名なんですが、僕からすればムダな雑談ではない。授業でやった英文のテーマに関連する話などをしてるんですが、おもしろいな、もっと知りたいな、できるようになりたいな、という思いを生徒に抱かせることが、なによりも重要なんですよね。ということで、これを読んでいる受験生諸君、先生の雑談に興味を持ちましょう(笑)。

板野
大学や受験勉強へのモチベーションを上げるためにオープンキャンパスへ行こう、というようなことが言われますが、そう簡単に上がるものかなと僕は疑問に感じています。もちろん一時的には上がるでしょうが、それが継続するかというと、これがなかなか難しい。灘でも、東大訪問とかはされているんですか?

木村
以前、東京への修学旅行で、あえて東大をコースから外したことがあるんです。代わりに、灘のOB訪問をさせた。大学病院、弁護士事務所、大手証券会社、テレビ局、そしてJAXA(宇宙航空研究開発機構)まで、いろんな職場に行かせたところ、みんなびっくりするくらい刺激を受けて帰ってきたんです。第一線で働く姿がむちゃむちゃカッコよかった、自分もああなりたいと言って、勉強への力の入れ具合もまったく変わりましたね。勉強しとかないと社会に出てから大変やぞ…とか、OBにそうとう言われたようで(笑)。東大見学とか東大生の話を聞くとかいうのとは、全然スケールが違うんですよね。案の定、その学年の東大受験者数は例年よりもかなり多かったんですよ。

板野
なぜ勉強するか、なぜ大学に行くかという話からスタートしましたが、本当に重要なのはその先なんですよね。高校生にはリアリティがないと思うけど、社会に出てからの方が何倍も大変。高校時代に勉強するのは当然で、それを当たり前にこなせないと次のステップでも活躍できないんだ、ということを目の当たりにする経験は絶対に必要だと思います。現場を体感することで、現実感も危機感も意欲も、自ずと湧いてくるはずですから。

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受験勉強に正解はあるか?

木村
大学には行きたいけど勉強をやる気は起こらないっていう人は、実はそこまで本気で大学に行きたいって思ってないんやと思うんです。そしてそういう人に限って、受け身になっている場合が多い。評判がいい参考書をやれば成績が上がるんじゃないかとか、そういう姿勢ではダメ。絶対に成績を上げてやろうという決意がないと、上がりません。

板野
そういう甘い気持ちの人は、いっそ勉強をやめてしまえばいいんです。1か月くらいまったく勉強から離れてみれば、勉強以外に自分の可能性を伸ばせることなんてないんだってことに気づくはずです。これは大きな気づきですよ。もう、勉強せざるを得なくなる。

木村
それは僕も生徒によく言います。落ちる所まで落ちてみろと(笑)。本当に大学に行きたいのかを問い直して、行きたいならその決意を周りに宣言するくらいの意気込みを持ってほしい。さまざまなプレッシャーや切迫感のなかで生まれるエネルギーはすごく大きい。さっきも言いましたが、受動的になりすぎている人が多い。『螢雪時代』の読者に期待をこめて言いたいのは、自分の力で勉強しろということ。与えられたものや情報に頼るんじゃなく、自力であがいてみろと言いたいですね。

板野
そうですね。計画はどう立てるべきか、勉強はどうやるべきかという質問をよく受けますが、明確な答えなんてないんです。ファッションと同じで、他人に似合ったからって自分に似合うわけじゃない。自分に合ったスタイルを自分の手で作り上げていかないとダメなんです。まだ時間はあるんだから、まずはいろいろと試してほしい。

木村
この『螢雪時代』に載っている情報だって、取捨選択してアレンジしてこそ、生きてくるんですよね。問題集や参考書だって、推薦された本を全部買ってるようではあかん。

板野
学校や塾・予備校の授業も同じだと思います。絶対的にいい授業なんてない。授業を良くするのも悪くするのも君たちなんだと、僕は生徒に言っています。今の時代は「大学受験」にまつわるさまざまな教材や方法がありますが、そのアレンジがうまい人、つまり自主的な勉強ができる人が結果を出しているんです。

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板野
大学というのは、価値観を作るために行くところだと思います。この4年間は、受け身だった高校時代までとは違い、自分の手で自分を形成する時期だと思うんです。とくに文系はそうですよね。学びたいことは大学で見つけてもいいんだし、入ってみてやりたいことと違ったら、転部でも編入でもして方向転換をすればいい。幅を持たせる意味でも、文系の人には「大学」で志望校を選ぶことをおすすめします。早稲田に行きたい、慶應がいいと、大学のイメージや雰囲気にあこがれがあれば、それで選んでもいいと思います。

木村
いい大学に行けばその先にいい人生が待っていそう…という感覚はみんなあると思います。もちろん、実際はそうとは限らないけども、茨の道が少しラクな道になるとは言える。東大の話になりますが、灘の生徒に聞いても、京大じゃなく東大を選ぶ理由として、3年生になるときに進路を選べることを挙げる子が多い。大学に入ってアカデミックな世界に触れいろんな経験をして、それから進路を決められるっていうのは、素晴らしいシステムやと思う。そこはさすが東大やなと(笑)。

板野
東大は方向転換をしやすい大学ですよね。一方、多くの大学では文理がハッキリ分かれているわけですが、理系の人は専門を学びに行くという意識を持って大学に行ってほしいと思います。将来の職業に直接的に結びつくことも多いので、学部や学科を選ぶ時点でしっかり考えてほしい。大学の名前だけでなく、興味のある研究をやっている先生がいるとか研究室があるとか、そういう細かいところで進路を決めてほしいですね。進路選びも大学時代の過ごし方も、文系と理系では異なってくると思います。

木村
最後に、なんとなくやる気が出ないっていう人に言いたいのが、「勝ちグセ」をつけろということ。朝起きてから寝るまでポジティブな気持ちで活動して、あと5分頑張ったら勝ちとか、そういう勝ちグセを習慣化していってほしいですね。逆に負けグセは絶対につけたらあかん。負のスパイラルでやる気も運気も下がってしまうんです。さらに、その日の勝ち負けを手帳の隅なんかに記録しておくといい。客観的に自分が見えてくるし、負けモードだった日はその原因も見えてくる。野球の強豪校が代が替わっても強いのは、勝つ気で勝負してるからなんですよね。負ける気で勝負しても、勝てるわけがない。これは胸に刻んでおいてほしいですね。

板野
僕が最後に言いたいのは、変なプライドは捨てろ、ということ。謙虚になれる人、良いものをどん欲に吸収しようという姿勢がある人は強いんです。先ほども言ったように、自分のオリジナルの勉強法を作り上げてほしいけど、オリジナルというのは白紙の状態から全部考えなきゃいけないわけじゃない。いろんなエッセンスを吸収していく中でできあがるもので、例えば木村先生の言葉だったり僕のアドバイスだったり先輩たちの合格体験記だったり、いわば「人類の英知」から得るものなんですよね。受験生のみなさん、この1年間は勉強に恋するくらいの気持ちで頑張ってください。



板野 博行
東進ハイスクール国語講師

京都大学文学部国文科卒。東進ハイスクール、東進衛星予備校で現代文と古文を担当する。受験研究所「アルスファクトリー」代表。『古文単語ゴロ565』(アルス工房)は受験生から圧倒的な支持を得るベストセラー。大好評の問題集シリーズ『板野博行のターゲット現代文1〜5 改訂版』『読むだけで運命が変わる 入試現代文の法則 新装版』(いずれも旺文社)など著書多数。

木村 達哉
灘中学校・高等学校英語科教諭

教壇に立つ傍ら、英単語帳『ユメタン』(アルク)や参考書などを多数執筆。また、「英語教師塾」を立ち上げ、他校の教員と教育について議論し合ったり勉強会を開いたりと、全国的な活動を展開している。昨年発売されたマーク・ピーターセン先生との共著『キムタツ式 英語長文速読特訓ゼミ』シリーズ(旺文社)は、全国の書店にて好評発売中。

撮影/荒川潤
スタイリング/眞藤伸子
文・構成/笹原風花

この記事は「蛍雪時代(2011年5月号)」より転載いたしました。


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