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学部長インタビュー「理学部の魅力とは?」東北大学 寺田眞浩先生

  • 【学部リサーチ 2017年版】理学部・工学部系統の総合的研究

“未知なるもの”の答えを世界で初めて手にする喜びを

《国立》東北大学 理学部 学部長
寺田眞浩(てらだ まさひろ)先生

1964年東京都生まれ。東京工業大学工学部化学工学科卒業。同大大学院理工学研究科博士取得後、ハーバード大学博士研究員、東北大学大学院理学研究科助教授、同大教授を経て2017年より現職。文科省科研費補助金・新学術領域研究「有機分子触媒による未来型分子変換」の領域代表として分野の発展に貢献。

寺田先生のご専門「反応有機化学」について教えてください

 反応有機化学という学問が最終的に結びつくのは、医薬品や農薬、機能性材料の合成を効率的に行うための方法論を開発することです。たとえば、ある有機化合物からなる機能性材料を合成するのに、従来は2段階の工程を踏んでいたものを1段階で済むようにするとか、あるいはまったく違うやり方とか、そういった方法を考えるということですね。あるいは「欲しい有機化合物を選択的かつ効率的につくる」方法論の開発です。「選択的かつ効率的」という言葉には、環境にやさしい、廃棄物を出さない、あるいは副生成物(by-product)を生み出さないといった意味が含まれています。それを実現するためにどんなことをするかというと、たとえば有機化合物の合成に触媒として白金やパラジウムといった希少金属を用いない方法の開発です。希少金属は触媒としてたいへん強力ですが、特に資源の少ない日本では確保の難しい材料ですから、有機合成にこれらの金属を用いることは、製造が経済状況に大きく依存することを意味します。また、特に医薬品製造の分野では、触媒として用いられる金属自体がもつ毒性が問題となることもあります。こうした課題の解決のために、われわれが研究に取り組んできたのが「有機分子触媒」という方法で、この研究は「有機分子触媒による未来型分子変換」と題して、文部科学省科学研究費補助金の対象となる「新学術領域研究」にも指定されたあと、産学連携のプロジェクトとして展開しています。産業界からの参加メンバーは製薬業界が中心ですが、電子機器メーカーなどからも広く興味を集めており、さらなる発展に向けて準備を進めています。


理学と工学の違いはどんなところですか?

 一般的には、理学は物事の本質を追求する学問、工学は理学などで培われた知見をものづくりに活かす学問と言えます。ただ、中でも化学の分野に関しては、理学と工学の境界はほとんどないと言っていいでしょう。最初にお話しした私たちの専門分野も、製薬や機能性材料などのものづくりに直結しています。もちろん、化学の中でもたとえば物理化学など、理学的側面の強い分野はあります。そうした分野で行われる、いわゆる「物事の本質」をとらえる基礎研究と、ものづくりにつながる応用研究とはあまり関連がないように見られがちですが、それは誤りです。基礎研究を通じて知識と経験を積み重ねた人であればこそ、社会に出て応用の世界に入ったとき、そこで「何が起こっているのか」がわかるわけで、そうした知見が最終的には社会に貢献することにつながってくるからです。私たちが理学部で行っているのは、そのようにしっかりした基礎をもち応用にも対応できる力を持った人材を育てることなのです。よく、理学部は就職が厳しいというイメージで語られますが、決してそんなことはありません。


東北大学理学部では、どのように人材を育てていますか?

 本学は「研究第一主義」を掲げていますが、私たちが育てようとする人材を鍛えるのも、やはり研究です。私の属する学科を例に取ると、3年次の前期までは座学で学びます。いわば高校時代に学んできたことの延長で、新しく物事の真理を追求しなければならない状況に直面したときのために必要となる知識を身につけます。3年の後期になると研究室に配属されますが、そこで取り組むのは“世界で初めて”のこと。つまり、誰も答えを知らないことに、自分の手で取り組むということです。その結果、どんな答えが出るかは学生がもっている力に大きく依存します。その人がもっている考え方のバックグラウンドなどが直接反映されるわけで、これは真の力が問われ、鍛えられます。

 もう一つ重視しているのは、人の心を動かす力。東北大の学生たちの多くは社会に出て、いずれは組織の中で人の上に立ち、物事を動かす立場になっていきます。そうなったときに、他の人を説得し、心を動かすことができなければ動くものも動きません。研究ができるだけではダメなんですね。コミュニケーション能力やマネジメントなど、いろいろな力をつけていかなくてはなりません。そうした力も、研究を通して学年が上がるごとにつけていければと思っています。

 これは私の研究室でのやり方なのですが、上級生と下級生を必ず組ませてかなり自由度の高い研究に取り組んでもらいます。放任ということではなく、裁量権を与えるということです。裁量権を与えられた上級生が下級生にさらに裁量権を与え、いかに「自分が研究をしている」という意識を持って取り組ませることができるか、という話を学生にも常々しています。


受験生へのメッセージをお願いします

 これは大学入試に対する苦言となってしまいますが、一般入試であれAO入試であれ、入試問題には必ず正解があります。このことが、学生の考える力を弱らせている一面があります。

 東北大学に入学して、自分にはそれなりの力があると自負していた学生が、いざ研究に取り組み始めたところで挫折を味わうことが多いのは、正解がある問題に慣れてしまっているためでもあります。

 自然科学に最初から答えが用意されているものはありません。そもそも、どうやって解くのか? という方法そのものから考えていかなければならない世界です。

 もちろん、受験勉強はきわめて重要なイベントではあるけれど、その一方で物事を深く考え、理解しようとする気持ちを、高校時代のうちに忘れないでいてほしいと思います。

 理学の本質とは、答えの用意されていない問いに、自ら答えを見出す喜びを経験できることにあります。未知なるものへの挑戦を通じて、世界で初めての答えを、ぜひ自分の手にしてほしいですね。

この記事は「螢雪時代(2017年8月号)」より転載いたしました。

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