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学部長インタビュー「生活科学部の魅力とは?」大阪市立大学 永村一雄先生

  • 【学部リサーチ 2017年版】家政・生活科学・栄養学部系統の総合的研究
  • [2017/6/22]

地域・社会に分散する問題の解決を考え、コーディネートする力

《公立》大阪市立大学 生活科学部 学部長
永村 一雄(えむら かずお)先生

1980年東京理科大学理工学部建築学科卒。工学博士。建築環境・設備を専門分野とし、現在は気候変動とヒートアイランド現象に伴う酷暑環境緩和のための「環境にやさしい住まい方」を提案。国内での取り組みだけでなく、世界最大のCO2排出国である中国で、建物由来の排出分を抑制するための国際共同研究も行っている。

永村先生のご専門「住まいの熱環境」とはどんな学問ですか?

 この「熱環境」は、もともと部屋の快適な温度からスタートした学問で、アメリカでは100年くらい前から研究が始まっています。「熱」が意味するところについて考えると、人が快適さを感じるのは温度だけではなく、湿度、放射、気流(風)といった要素によります。「放射(輻射)」はちょっとわかりづらいですが、太陽などから空気を介さず直接やってくる熱のことです。西日が壁を熱して、室内が暑いのはその典型的な例です。風については、扇風機の風が肌に当たると涼しく感じる、ということですね。これらの要素を一定の水準に置いて快適さを保つ、というのが熱環境研究の一つの目的です。

 ところで、「快適」という言葉を聞いてみなさんはどんな状態を想像されるでしょう。英語の “comfort” という単語からは、気分が高揚するような状態を想像するかもしれません。しかし、住まいの熱環境という学問が本来めざしている快適さとは「中庸」です。暑くもなく寒くもない状態のことをいいます。たとえば暑い場所から寒い場所に移動すると、その瞬間は「快」を感じますが、そこに長時間居続けることはできません。逆もまた同じです。これとは違い、長時間居続けても身体にストレスがかからない状態をめざすということですね。

 ただ、室内空調の研究に関しては、学問としてはほぼ一定の成果が出ている状態です。これに代わって、熱環境の分野で多くの研究者たちが近年取り組んでいるテーマが温暖化への対策です。

 温暖化に関しては、世間によく知れ渡ってきたとはいうものの、その深刻さについてはまだ認識が足りない気がします。実際、温暖化対策に取り組む多くの研究者たちは、たとえば政府が目標として掲げる気温上昇の歯止めのためには、現在の“省エネルギー”ではまったく間に合わないと言っています。専門家に言われば、消費するエネルギーをゼロにしなければならないというのです。

 この問題に対する一つの解決策として提示されているのが“ZEB(ZeroEnergy Building)” あるいは “ZEH(Zero Energy House)”と呼ばれる建物です。ここでいう “Zero Energy”はエネルギーを一切使わないということではなく、たとえば消費エネルギーの中に太陽光発電などを組み入れることにより、トータルでの差し引きをゼロにするという考え方です。

 もう一つ、これは大阪という大都市に住む私たちにも身近ですが、温暖化と並んで深刻な問題がヒートアイランド現象です。それはすでに死者が出るレベルに達していて、特にエアコンを使わない(使えない)層や乳幼児・高齢弱者などの人権にも関わる問題です。

 ヒートアイランド現象の最大の要因は建物への蓄熱で全体の要因の3分の1、その次に大きいのはエアコンなどの排熱と言われています。自動車も大きな要因と思われがちですが、実は全体の10%ほどに過ぎません。自動車の場合、早いうちから環境問題の“犯人探し”のやり玉に挙がったことから、性能改善など対応が進んだことも貢献しているのでしょう。建物の場合はそうした視点が当てられないまま快適性をひたすら追い求めた結果がいま、自分たちに返ってきているわけです。そのことを理解し、自動車業界が行った「トップランナー方式」と同様に改善していくことが、いま本気で取り組まなければならない課題だと思います。

 ちなみに、大阪は8月の最高気温の平均が沖縄をわずかに抜く水準に達しています。私たちは公立大学という立場としても、大阪をどうするか考えていかねばなりません。現在は私たちのグループで、建物への蓄熱を防ぐため、壁面で太陽光を反射させる技術について研究を進めています。実用化はまだ先ですが、研究が進めば大阪だけでなく、他の地域にも応用できる成果が出ると考えています。


これからの生活科学に必要な視点は何でしょう?

 生活科学は、かつて「家政」と呼ばれて「家の中の学問」というイメージでしたが、そこから一歩出て空間・地域・都市といった領域に広がっているのはこれまでお話しした通りです。

 これからの生活科学が取り組む視点のたとえとして、かつて大きな社会問題となった「公害」を例に解説します。公害はその原因が特定かつ集約されているため、課題解決の視点で見ると、判明している汚染源だけを叩けば済む問題でした。ところが温暖化やヒートアイランド現象は、生活に密着した小さな問題を抱えた人々が至るところに散らばっている“分散型”です。こうした問題への取り組みこそが、いま社会全体で求められています。そのためには、さまざまな分野の人々と組み、接触しながら、分散した問題を最適化させる道を探っていくべきです。生活科学の役割としては、専門的な知識を持ったうえで課題解決チームのコーディネーター役を演じられる力も必要だと思います。


大阪市立大学の教育の特長を教えてください

 本学は、「生活科学部」という学部名称を全国で初めて冠した大学です。その背景には、従来の家事学・家政学ではなく、学際的に「科学をする」という強い思いがあったのだと思います。実際、本学に入学してくる学生はその多くが建築士などの資格取得を一つの目的にはしていますが、結果として資格取得以上のものを学び取り、生活科学として学んできた成果を地域実践に活かしたり、あるいはグローバルに活躍したりする学生も増えています。

 そのように、資格にこだわらず実践的に学ぶことについては、学生も教員もプライドを持って取り組んでいると言えます。座学も重視しますが、生活の課題を解決するための実践的な科目を、必修も含めて積極的に投入しているところは、本学の強みと言えるのではないでしょうか。


受験生へのメッセージをお願いします

 学業の成績はともかく、物事をよく考えられる人に、ぜひ来てほしいと思います。暗記型だけの入試をくぐり抜けて来た人だと、見たままの結論からなかなか先へ展開しません。

 人は、考えたときに初めて一歩先へと踏み出せます。「記憶」はGoogleに任せてしまっていいのです。大切なのは、たとえばGoogleで集めた情報の真贋を探り、それらをどう組み合わせればよいかを考える力です。そして、多少偏っていてもいいので、自分の好きなことを深掘りできる力のある人。そんな人の入学を、お待ちしています。

この記事は「螢雪時代(2017年7月号)」より転載いたしました。

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