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学部長インタビュー「農学部の魅力って何?」九州大学 平松和昭先生

  • 【学部リサーチ 2016】 農・獣医畜産・水産学部系統の総合的研究

グリーン・ライフイノベーションを牽引する
国際的視野を持つアグリバイオリーダーを育成

《国立》九州大学 農学部 学部長
平松 和昭(ひらまつ かずあき)先生
1958年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学農学部農業工学科卒業。九州大学大学院農学研究科農業工学専攻修士課程、同博士後期課程修了。農学博士。九州大学農学部助手、九州大学大学院農学研究院助教授、教授を経て2013年農学研究院長、農学部長。専門は、水環境学で、特に農業・農村地域を対象とした水環境の数理モデルの開発研究で知られる。2005年度農業土木学会論文賞。2014年日本農薬学会論文賞。

なぜ、農学部を選んだか

 私が小学生の頃、アフリカでビアフラ戦争(1967-1970)が勃発し、子どもたちを中心に大量の餓死者が発生しました。そのショッキングな影像がテレビで放送され、私はその頃から人類の平和や食、健康を支える職業に将来就きたいと漠然と考えるようになりました。

 高校時代は、どの学部に進めばその思いをかなえられるか悩みましたが、水産学の研究者だった父の影響もあり農学部、それも多くの友人が進む地元の九州大学を選びました。入学後の教養科目で受けた物理系や数学系の講義が面白く、数物系の手法が基本となる農業工学科農業土木学専修に進学しました。

 当時、農業工学科では、農業農村地域の生産基盤や生活基盤に関する教育を受けたうえで、灌漑、水、土、気象の4つの研究室からひとつを選ぶようになっていました。私は水(環境学)を選んだのですが、それは、農業農村地域の生産基盤や生活基盤を安定させる上で水環境はとりわけ重要だと感じたからです。

 現在、私たちの研究室では、水環境を「質」と「量」の両面から研究しています。「質」の面では、水域の富栄養化や貧酸素化のメカニズムを解明することを目的に、降雨量や流量、水域の水質を測定したり、水をサンプリングして実験室で水質分析をしたりします。そしてそうしたデータを基に将来予測や水質改善のための方策の提言を行ったりしています。

 また、「量」に関しては、大雨が降った際の農地域で洪水被害を最小限にくいとめるためのシミュレーションを行い、数理モデルの開発を行っています。たとえば、九州最大の河川で暴れ川としても知られる筑後川の下流域を対象に、開発した洪水シミュレーションモデルを使って、洪水被害を最小化するための排水ゲートや排水ポンプの最適操作などの研究を行っています。

 現在、東南アジア新興諸国では、農薬や化学肥料の投入量の増大や急速な都市化の進行、地球温暖化に伴う海水面上昇などによって、農林水産業の生産基盤の劣化、機能喪失が急速に拡がっています。これらの問題についても、東南アジアの大学の研究者と連携した研究を進めています。

農学部が果たすべき役割

 農学は、農林水産業への貢献だけでなく、自然・人工生態系における生物生産と人間社会との関わりを基盤とする総合科学です。生命科学、生物資源科学、環境科学、生活科学、社会科学など、多様な学問が協同して、農林水産生態系の持続的保全と発展を図り、人類と多様な生物種を含む自然との共生を目指す学問です。

 さらに、生物機能の開発・利用、技術の開発、社会システムの整備を提案・実現し、そして、地球環境を保全し、食料や生物資材の生産を基盤とする包括的な科学技術を発展させ、人類の共存と福祉に貢献する学問です。

 医食同源と古くから言われるように、私たちの健康を常日頃から支えるには、健全な食生活が重要です。さらに積極的に健康を増進するために、現代では様々な機能性食品の利用も盛んになってきました。また、再生医療や免疫療法などの次世代医療、さらに、生物資源を活用した再生可能エネルギー利用などにも農学は大きな役割が期待されています。

 現在、地球規模で私たちの生活に影響する問題として、地球温暖化、エネルギー問題、生物多様性の維持、食糧の持続的供給、食の安心・安全、貿易自由化(TPP)などが挙げられます。これらは全て、広い意味で農学が扱うべき問題です。農学こそ、最もグローバルな展開が期待されている学問領域と言えます。

九州大学農学部の特長と魅力

 九州大学農学部は建学以来、「応用に偏らず、基礎に偏らず」の精神を連綿と継承し今日に至っています。教育の特長・魅力として挙げられるのが、「学部一括入学方式 & レイト・スペシャリゼーション」と「グローバルな教育研究展開」です。

 九州大学農学部には、生物資源環境学科のもとに、生物資源生産科学コース(農学、生物生産環境工学、生物生産システム工学、農政経済学)、応用生物科学コース(応用生命化学、食糧化学工学)、地球森林科学コース(森林機能制御学、森林機能開発学、生物材料機能学)、動物生産科学コース(水産科学、アニマルサイエンス)の4コース11分野が設置されています。獣医学を除いて自然科学から社会科学まで農学のあらゆる領域をカバーしているのが特長です。

 この多様な領域を、高校生の段階で見極めて入試の時点で選択するのは困難です。そこで、九州大学農学部がとっているのは、「学部一括入学方式」と「レイト・スペシャリゼーション」です。新入生は全員が農学部生物資源環境学科に入学し、所定の教養科目(基幹教育)を履修して、2年生の後期開始時にコース・分野配属を決定します。

 教養を学びながら専門を決めて行く方式は「レイト・スペシャリゼーション(late specialization)と呼ばれ、狭い専門に凝り固まった人材ではなく、総合的な視座から研究や社会をリードできる人材を育成するために極めて有効と考えられています。

グローバルな教育研究を展開

 九州大学農学部は、東京大学、北海道大学の農学部に次いで、全国3番目の国立大学農学部として1919年に設置され、本年98周年を迎えます。一方、大学院は農学研究科として1953年に設置されましたので、今年で64年目を迎えることになります。

 農学部は戦前からアジアと深い繋がりがあり、技術協力や教育・研究連携に組織的に取り組んできました。また、多くの教員が海外研究機関と研究者レベルでの研究交流を進めています。一方、農学部を卒業したアジア各地からの留学生は母国の農林水産業の発展、近代化に大きく貢献しており、中にはベトナムで「農業の父」として現在でも国民から敬愛されている故ルォン・ディン・クア博士のような卒業生もいます。九州大学がアジアのゲートウェイ・福岡に位置することも、この強みを後押ししています。

 この強みが具体的な形となっているのが、2010年度から全国の大学に先駆けて実施している「国際コース(外国人留学生のための秋入学の学部英語コース)」です。英語力の条件はありますが、日本人学生も国際コースの授業に参加して、留学生と共に学ぶことができるほか、夏休み期間などを利用して現地に出向き、海外の協力校の授業を履修して単位を取得することもできます。

 国際コース以外にも、英語力強化プログラム→短期留学→海外大学での科学体験プログラム→相互派遣留学プログラムを軸とした「国際的視野を持ったアグリバイオリーダー人材の育成」という日本人学部学生向けプログラムもあります。

 こうしたグローバル人材の育成を目指したプログラムが行われた結果、九州大学農学部・大学院生物資源環境科学府では学生7人に1人が留学生。短期・長期の海外留学プログラムに参加した学生は全体の20%、さらに、年間280人が英語力強化プログラムに参加しています。これから入学する皆さんが、教育グローバル化の各種プログラムに参加し、国際的な視野を持ったアグリバイオリーダーになることを心から期待しています。

入学を期待する学生像

 九州大学農学部では、現在、2018年の伊都キャンパス移転を目指し、学部棟の新設、オンキャンパス農場としては国内最大規模となる農場の設置などが着々と進んでいます。これをお読みになっている皆さんにとっては、専門分野の勉強が伊都キャンパスでできることになります。私たちもそれらの施設が皆さんにとってより良いものとなるよう力を尽くしています。

 九州大学農学部には、「生命、水、土、森、そして地球から学び得た英知を結集し、人類の財産として次世代へ伝え、人類と地球環境の豊かな共存を目指して、進化する農学を実現する」というミッションがあります。

 このミッションのもと、新鮮な感性と若いエネルギー、パワーを持つ新入生諸君とともに、新たな知を創造していきたいと考えています。一度しかない人生です。最高レベルを追及して全力投球できる人、大きな夢とチャレンジ精神を持って入学してくる諸君を待っています。

この記事は「螢雪時代(2017年1月号)」より転載いたしました。

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