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学部長インタビュー「法学部の魅力って何?」北海道大学 長谷川晃先生

  • 【学部リサーチ 2016】 法・政治・国際関係学部系統の総合的研究

"法の精神"を司る大きく広い視点を
フロンティアスピリットで育てたい

《国立》北海道大学 法学部 学部長
長谷川 晃(はせがわ こう)先生

1954年秋田県生まれ。東北大学法学部法学科を卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科で法哲学を専攻し、1982年に博士課程修了(法学博士)。北海道大学法学部助教授、同大学教授を経て、2014年より同法学部長および大学院法学研究科長。同大学アイヌ・先住民研究センター兼務教員も務める。現代の平等論、メタ価値論、法クレオール論などを主な研究テーマとする。著書に『法のクレオール序説―法融合の秩序学』(北海道大学出版会)、『公正の法哲学』(信山社出版)など。

基礎法学とは何か

 昔から「法学部はつぶしがきく」ということがよく言われますが、私もその例に漏れず、法学というものをあまりよくわかっていない状態で法学部に進みました。いざ入学してみると法学の勉強もそれなりに面白かったのですが、だんだんと哲学のほうにも興味が出てきました。一時は文学部への転部も考えましたが、実は法学部にも「法哲学」という科目があることを知り、当時東北大学におられた青井秀夫先生のゼミに入りました。私は社会科学としての法学が、「法」というほぼ架空の対象について何を語ろうとするものなのか、という点を考えたかったのです。

 法哲学を学ぶ中、大学の図書館で碧海純一(元東京大名誉教授)先生の著書『法哲学概論』を読む機会がありました。この本では「経験的に実証できない命題は無意味である」と述べていて、当時の学会でも衝撃をもって受け止められたのですが、私もこの本を読んで、これまでの自分の世界が崩れていくかのような感覚を覚えたものです。その後、法哲学をもっと学びたいと思い、東京大学大学院で碧海先生に師事することとなりました。先ほど、哲学への興味から文学部への転部も考えたと言いましたが、今になってみるとあえて法哲学という分野を選んでよかったと思っています。なぜなら、法哲学は法や正義、そして規範について考える学問であり、それが人間の社会的行動や社会秩序の中に持つ意味は大変大きいと考えるからです。

 私が本学法学部で担当している「基礎法学」は、いくつかの領域に大別されます。まず、今お話しした「法哲学」。「法社会学」は、社会における人々の法意識や法制度の機能の仕方など、法が持つ社会的機能について考えます。これらはしばしば「法理論」とも呼ばれます。「比較法」は、他国の法制度と日本の法制度の比較が主となります。「法史学」では、各国の法制度が歴史的にどのように形成されたかを学びます。このように、法の基礎となる考え方を、理論・比較・歴史といったさまざまな角度から見ていくのが基礎法学です。

歴史・文化・思想―
法の本質を多角的に見ること

 私が専門としている研究テーマのひとつに「法クレオール論」というものがあります。これは簡単に言うと、異なる文化圏のもとで形づくられた法制度同士が融合したときにどんなことが起こるかを考える学問です。例を挙げましょう。古代ギリシャ法はアテネをはじめとする都市国家で形成された法制度ですが、その起源は地中海世界においてギリシャと接触を持っていた古代オリエントの法がギリシャ的な内容に変化して取り入れられたと言われています。また、これに続くローマ法はローマ教会の発生に伴う教会法や大帝国化による民法の制定といった方向に発展しますが、やはり古代ギリシャとの歴史的・人的つながりに大いに影響されています。このローマ法は後にヨーロッパ世界へと広がり、例えばドイツではゲルマン法と融合して後のドイツ法の基礎となったり、フランス法やイギリス法の基礎として取り入れられたりもします。

 その後、ローマ法はフランスの慣習法などとも結びついて1804年にナポレオン法典(フランス民法典)として成立し、フランス以外のヨーロッパ各国にも大きな影響を与えます。そしてその影響の一端は、実は明治維新前後の日本にも及んでいるのです。当時、朝廷と対立状態にあった江戸幕府は、フランスに支援を求める関係にありました。そうした影響もあって、幕府の若い藩士たちの間には、法も含めてさまざまなことをフランスに学ぼうという機運が生まれていました。これは倒幕派も同じで、最終的には江戸幕府は倒れ、明治新政府はドイツの法制度を基礎に取り入れた大日本帝国憲法を制定することになりますが、いずれにしても古代オリエントに発した法が長い歴史を経て日本まで伝わったという流れをここに見て取ることができます。このように、歴史的な“接続(コネクション)”と“変化”という観点で法を見るという視点も大切ではないかと私は考えています。

 近年、憲法改正に関する話題が大きく取り上げられていますね。いまお話ししたとおり、法というものは憲法も含めて常に不変のものではなく、歴史や文化的接触、また政治的な動きによって変化・変容します。ただそれでも、法や政治を形づくるうえで最も基本的な価値観には、不変のものがあるのではないかと考えています。それを考えるためにも、法制度の歴史的な成り立ちを知ることや、いわゆる“法の精神”というものを社会、文化、思想などの面から多角的に捉えることが大切です。

 さて、法学部では必ずと言っていいほど取り上げられる「リーガルマインド」という言葉があります。この言葉には実はいろいろな解釈があるのですが、共通するのは「事実をよく観察し、分析する」ということ。「何がどうなった」だけではなく、紛争などの当事者の考え方や感情まで理解するということです。それらを冷静に見る眼を持ち、かつ法的な常識や社会的な良識に照らして適切な判断を下せる力がリーガルマインドの基本だと思います。そして、その「法的常識」や「社会的良識(通念)」が、先ほどお話しした基礎法学につながってきます。つまり、常識や良識と言われるものの文化的/歴史的/思想的根拠はどこにあるのかということです。リーガルマインドという言葉の解釈は、こうした基礎法学的観点から見るか、実定法(刑法や民法など、社会で実効的に使われている法)的観点で見るか、あるいはその両方を踏まえた立ち位置で見るかによって異なりますが、私たち北大法学部としては、実定法学も尊重しつつ、その根拠となる基礎法学や政治学の視点も加えた広い視野で、法というものを捉えたいと考えています。

法の精神を育てる
“北大イズム”

 法に対するそうした考え方を養うために、本学法学部では1974年の大規模な組織改革の際に「大講座制」を採用しました。それ以前は科目ごとの講座が置かれ、各講座に教授陣が配されていました。こうしたいわば「小講座制」が、教育や研究における講座や分野間の有機的な関係を阻害するのではとの先生方の懸念から、現在に至る公法・民事法・社会法・刑事法・基礎法学の5大講座を設置したのです。この体制によって縦割り意識が解消され、また法学および政治学のさまざまな分野相互のつながりが、科目を自由に選択しやすい履修制度とも併せて、組織同士の連携だけでなく法学に対する意識をも育てやすい環境として機能しています。また、本学法学部の教育におけるもう一つの特長は演習重視であり、教員と学生の間の敷居が非常に低いことです。学生自身が関心を持った事柄があれば持った分だけのレスポンスが教員から返ってくる環境が整っているのです。

 これは法学部に限った話ではないのですが、北海道大学は道外出身者の比率という点では北海道随一です。道外、特に本州から本学に入学してくる学生は北の大地や自然への憧れなどさまざまな想いを持ってやって来るためか、ゼミなどでも元気でアクティブな人が多いようです。対する道内出身者は比較的おとなしい傾向にあるようですが優秀で、両者とも違った意味で良いポテンシャルを持っていると思います。また、本学はクラーク博士の時代に源をもつフロンティアスピリット・国際性の涵養・全人教育・実学重視という建学の精神を持つ唯一の国立大学としても知られており、その精神は現在の教員や学生たちにも受け継がれています。そうした学生たちのポテンシャルをうまく引き出すことが私たちの課題でもあるわけですが、例えばグローバル教育について言えば、今年で3年目となるスーパーグローバル大学事業の一環である「新渡戸カレッジ」は学生たちに刺激を与え、かき混ぜ、彼らのポテンシャルを開花させるプログラムとしてうまく働いているように感じます。

 法は、人間社会の最も根源的な枠組みです。日本の六法全書をどう読むか、省庁や国会の動きをどう見るかということも重要なテーマではありますが、そうではなく、古代から人間が社会をつくる基礎になってきたもの、という大きな視点で法を捉えたい人、そうした視点で学びたい人にぜひ来てほしいと思います。北海道大学には、その興味・関心に応えるだけの多角的 な科目と意欲ある教員がいますから。

この記事は「螢雪時代(2015年12月号)」より転載いたしました。

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