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学部長インタビュー「経済学部の魅力って何?」関西大学 谷田則幸先生

  • 【学部リサーチ 2016】 経済・経営・商学部系統の総合的研究

数理的思考を駆使して
複雑な経済現象をシンプルに見通す

《私立》関西大学 経済学部 学部長
谷田 則幸(たにだ のりゆき)先生

京都府生まれ。九州大学理学部数学科を卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社。その後電気通信大学に入学し、1997年理学博士取得。関西大学助教授、同大学教授を経て2016年より現職。機械学習や人工知能基礎論を専門分野とし、数理モデリングを生物学から経済学、貧困問題、防災まで幅広い分野に適用した研究実績で知られる。共著に『経済・社会学のためのコンピュータ入門』(朝倉書店)、『Windows for Expert Visual Stat.』(BNN)などがある。

コンピュータサイエンスと
経済学との関係

 私の専門はコンピュータサイエンスです。その中でも特に「形式言語理論」(機械で読むことが可能な文書や人工言語を含む形式的構造の言語に関する理論)や「オートマトン論」(外部からの情報入力に対し、内部の状態に従って情報を出力するシステムについての理論)といった、数学と非常に近いところの道具を使って、人工知能あるいは機械学習と呼ばれるものを研究するといったところから始まっています。

 そもそもこの分野に進んだきっかけですが、実は私は九州大学理学部数学科を卒業したあと、一度民間企業である日本アイ・ビー・エムに入社しています。この会社に私が所属していた頃、世間では人工知能がある種のブームのようになっていたのですが、私もこの分野に興味を持ったことから、社会人入学という形で改めて電気通信大学に入りました。その後、電気通信大学大学院時代に東洋大学経済学部でコンピュータ関係の授業を受け持っていたことが縁で、経済学部に籍を置くこととなり現在に至っています。

 経済学とは、人間の身の回りで行われる経済活動が生活にどのような影響を及ぼしているか、そして私たちの生活をより良くするにはどうすればよいか、ということを考える学問です。とはいえ、経済の現象というのは大変複雑で、そのまま取り扱うことがかなり難しいものです。当然ではありますが経済学は社会科学のひとつですから、誰が考えても同じ結論になるという、ある種の普遍性が必要になってきます。そうした普遍性を導き出すにあたって、数学は非常に役立つツールだと言えるのです。ただ、数学で表現できる事柄というのは非常に限定的ですし、またある事柄を数学で表現するにはいろいろな“仮定”を設けなければうまくいきません。つまり、現象の概念を考えるのに必要のない事象や要素は考えの外に捨て(捨象)、物事の「骨組み」を捉える際には数学が役に立ちます。物事をシンプルに見るということですね。

コンピュータ上の人工社会に
経済を動かすしくみを見出す

 これまで、統計的シミュレーションや人工知能を用いたアプローチとしては分子生物学から防災施策の検証、貧困・格差問題まで幅広い分野で研究を行ってきましたが、現在中心的に取り組んでいるのは「社会的包摂」というテーマです。(社会的包摂=国民一人ひとりを「社会の構成員」として、孤立させず取り込んでいこうという理念。social inclusionの訳語)例えば貧困に苦しんでいる人がいるとたら、それは社会として救ってあげなければなりません。その救う方法として、ただお金を与えて援助するという方法も当然あると思います。ただ、本当に貧困を脱するということを考えるなら、将来お金が稼げるようになるために技術や知識を習得すること、勉強することを支援してあげるという方法もひとつの大事な考え方です。アマルティア・セン(アジアで初めてノーベル経済学賞を受賞したインドの経済学者)も、これに近い考え方を述べています。このテーマについて私たちがどんなアプローチをしているかというと、コンピュータ上に「人工の社会」のようなものを作り、この社会の中に人や企業といった「経済主体」を配置していきます。物事を理解する方法として、自然科学などでは実験というアプローチが有効です。ところが経済学が扱うのは私たちが生活をする、実在する社会ですので容易に実験することができません。したがって、私たちはコンピュータ上に「人工社会」を作り、そこで実験を行います。通常、経済学における主なアプローチでは、ある経済現象について、その動きを説明するためのモデル(数式)を導くということをしますが、私たちの研究はこれとはまったく違い、その現象を起こすためにはどういった「しくみ」が必要なのかを考えます。そのしくみを人工社会に再現し、人工社会に対して何らかの「刺激」(たとえば政策)を与えることで現象がどのように変化するか―といったように、物事を実験的に見ていきます。株式市場の例で言うと、そこには単純に人々(研究では「エージェント」と呼ぶ)がいて、それぞれが株式を売ったり買ったりしているだけですが、時折バブルのような現象が起こるのは、誰もバブルを起こそうとか崩壊させようとかいう意思で動いているわけではなく、あくまでエージェント同士の連続的な相互作用の結果なのです。さらに言うと、その現象からまたエージェントが影響を受けて動くというシステム(ミクロ・マクロループ)ができていたりします。こうしたしくみの解明を通じて、テーマに対する最適な答え(より良い政策)を見出していければと考えています。

“文系”経済学部で
数理的に考えることの意味

 関西大学経済学部には経済理論、金融・会計、公共経済、歴史・社会、産業・企業経済、国際経済、統計・情報処理の7専修があり、私は統計・情報処理専修の中で「経済情報処理論」という科目を担当しています。これは、経済データを対象とした統計分析について学ぶ講義で、コンピュータを駆使した分析の実習なども行うことを通じてデータを統計的に処理する力を身につけてもらうことが狙いです。

 経済学部は便宜上「文系」に分類されることが多いため、以前ほどではありませんが数学的能力に対する意識の薄い学生が少なくはありません。もちろん、専修で言えば歴史・社会のように直接は数学の能力を必要としない分野も経済学にはありますから、学部としても、数学が得意な学生とそうでない学生それぞれに適したコースを用意しています。ただ、カリキュラムで「初級ミクロ経済学」「初級マクロ経済学」を基礎入門的科目として必修科目に加えていることからもわかるように、数理的な考え方を持ってほしいという考え方は、学部の教育方針として持っています。

 また、これらの基礎入門的科目に加え、本学経済学部では2010年からゼミナールを必修化しました。すべての学部生は2年生の秋学期から各専修のゼミに入り、2年間の専門・選択科目履修を経て4年次秋学期に卒業論文を作成します。ゼミを必修とすることについてはいろいろな意見があろうかと思いますが、本学経済学部として目指してきたのは「学士力保証」とでも言うべきものです。つまり、経済学部に入学し学んできたことの成果を「卒業論文」という明確な形でつくり上げることにこだわりました。

言語と数学―ツールを活かして
国際的に貢献できる人材に

 最後になりますが、経済学部をめざす受験生の皆さんにいくつかお伝えしたいと思います。ひとつはまず私の専門の立場からですが、数学は便利なツールであるということ。例えば英語は、覚えれば世界のたくさんの人たちと話すことができるツールです。それと同じように、数学というツールをうまく使うことができると、物事を非常にシンプルに見ることができるのです。ですから、他の教科や分野と同じくらい、できれば数学を勉強しておいてもらえるといいなと思っています。

 もうひとつは、グローバルな視点を持っていてほしいということ。皆さんもよくご存知のように、もはや日本だけで何かができるという時代ではなく、経済だけでなくあらゆることが、世界のつながりの中で動いています。イギリスのEU離脱(Brexit)が決定した直後、日本の市場が瞬時に大混乱に陥ったことはまだ記憶に新しいでしょう。そうした意識・視点をしっかり持った人になって、社会に出て行ってほしいと考えています。

 なお、本学経済学部では幅広い視野と高度な判断力を持ったグローバルパーソンの育成を目的とした「GoLDプログラム(Global Leadership Development Program)」を実施しています。タイ、中国、オーストラリア、台湾、ベトナムの5大学と提携を結び、それぞれ1?5週間程度の短期留学を行うプログラムです。この短期留学では外国語によるコミュニケーションはもちろん、現地の経済に関する学習や企業訪問、現地の学生とのディスカッション等を通じて視野を拡げることができると考えています。こうした制度にも積極的に参加して、世界と渡り合い、国際的に貢献できる人材になってもらえればと思っています。

この記事は「螢雪時代(2016年11月号)」より転載いたしました。

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