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学部長インタビュー「商学部の魅力って何?」一橋大学 蜂谷豊彦先生

  • 【学部リサーチ 2016】 経済・経営・商学部系統の総合的研究

企業経営に関わる現象を対象とした応用的な社会科学
経済社会に関し深く思考し解決を導き出す力が身につく

《国立》一橋大学 商学部 学部長
蜂谷 豊彦(はちや とよひこ)先生

1963年茨城県生まれ。一橋大学経済学部卒業。三菱総合研究所に勤務後、一橋大学大学院商学研究科博士課程に入学。同後期課程単位取得満期退学。東京工業大工学部経営システム工学科助手、青山学院大経営学部講師・助教授、東京工業大大学院社会理工学研究科助教授を経て2009年一橋大商学部教授。2015年度から商学部長・商学研究科長。専門は経営財務で、『コーポレート・ファイナンスの考え方』『基礎からのコーポレート・ファイナンス(第二版』(中央経済社)など多数の共著書がある。

商学部と経済学部は
どこが違うか

 「商学部と経済学部では、学ぶことにどのような違いがあるのですか?」という質問をよく受けます。大学やそれぞれの学部によって状況や考え方に違いがあるため、一般論として述べることは難しいのですが、学部、大学院で両者を経験し、現在、教鞭をとる立場から私は次のように考えています。

 商学部での教育・研究で扱う内容を一言でまとめると、「企業経営に関わる現象を対象とした応用的な社会科学」と言うことができます。ここから次の3つのことが言えます。

 第一に、企業経営に関する問題・現象に焦点が当てられているということです。経済学をはじめとする他の社会科学でも、企業経営に関わる問題は部分的には扱われています。しかし、商学部では、企業経営が教育・研究の焦点になっているのです。

 第二に、対象は企業経営に絞られていますが、それに関する問題や現象の分析には、経済学、社会学、歴史学、心理学、法学といった隣接する様々な領域の考え方が応用されていることです。例えば、金融論には、経済学の多くの理論や考え方が反映されていますし、会計学は法学と、経営学は社会学などと関係が深いのです。このように、商学・経営学は、様々な学問と関係がある「応用的な」社会科学と言えるのです。

 第三に、「応用的」ではあっても、独自の考察方法が発展していることです。例えば、経営学の領域のひとつである経営組織論では、社会学、心理学、経済学などの考え方を基盤として、企業組織の問題や現象を扱いますが、そこで考察される内容は、社会学などにおける考え方を直接適用したものではなく、独自の理論体系をなしています。また、会計学の一領域である監査論では、公認会計士の判断・意思決定を分析するために心理学を応用しますが、分析の対象となっているのが「高度な知識を有する専門家」であるため、その研究成果は逆に心理学の発展にも寄与しているのです。

一橋大学商学部とは
どのような学部か

 一橋大学には、商学部と経済学部はありますが、経営学部はありません。商学と経営学を合わせて商学部という名称を使っています。すなわち、一橋大学商学部は、商学と経営学を合わせて学ぶ学部と言えます。これは一橋大学の成り立ちに関わります。

 一橋大学の歴史は1875年に開設された「商法講習所」にさかのぼります。「商法」とは「商いの方法」という意味で、法律の商法のことではありません。森有礼(後の初代文部大臣)や渋沢栄一(日本近代資本主義の父)といった明治期に近代日本の礎を築いた人たちが、「これから経済発展を遂げようとする日本経済にとって、企業経営・商業・企業環境を体系的に学ぶことが重要だ」と考え、今でいうビジネススクールとして設立したのが商法講習所でした。

 その後、商法講習所は東京商業学校、高等商業学校、東京高等商業学校、東京商科大学と名称を変え、1949年に一橋大学となりましたが、現在に至る一橋大学の140年余の歴史の中で、およそ半分は「商」のみでした。この意味で、商法講習所以来の商学・経営学の伝統を引き継いでいるのが商学部であり、最近のグローバルCOE、グローバル教育など、研究・教育の両面で、先導的な役割を果たしているのが、商学研究科・商学部だということができます。

 一橋大学商学部は、一言でいえば、「ビジネス」を学ぶ学部です。しかし、ビジネスに関する単なるテクニックやノウハウを学ぶところでは決してありません。経営学や会計学、マーケティング、金融論といった「企業経営」に関わる現象を対象とした応用的な社会科学を学ぶことを通じて、実際の企業活動に関わる出来事や問題について深く考え、的確な分析をし、現実的な解決策を打ち出す、そういう意味での「実学」を身につけるところです。

 ここで言う「実学」には、社会科学の理論という裏づけがあるのはもちろんのこと、哲学・思想という裏打ちもあります。商学や経営学の領域は、中身を知らない人たちからは、ビジネスのための手段であり、スキルやテクニックの体系のように思われるかもしれません。しかし、私たちの学部は、ビジネスの方法とともに、その背後にある思想や哲学といったものも研究対象とし、それを学生諸君にわかりやすく、しっかりと伝えることを常に心がけています。

4年一貫で行われる
伝統のゼミ教育

 一橋大学はゼミ教育で知られています。ゼミは、一人の指導教員が、通常、数人から十数人という少数の学生と小さな教室で向き合い、専門書を輪読したり、互いに議論を重ねたりしながら学んでいく教育スタイルで、一橋大学では100年以上も脈々と続いている伝統的な教育スタイルで、商学部に限らず、どの学部でも重視されています。

 一橋大学の学生は、3年次と4年次の2年間、必ずいずれかのゼミに所属し、そこで指導教員から直接薫陶を受けつつ、自分の専門分野を修めていきます。4学部合わせて1学年1,000人程度の小規模校だからこそできる、きめ細かな教育方法と言えます。

 このような一橋大学にあって、とりわけ商学部はゼミ教育に力点を置いています。商学部では、3・4年次の2年間だけでなく、それに先立つ1年次、2年次でも、いずれかのゼミに所属することが義務付けられています。

 商学部での4年間の少人数ゼミは、学年が進むにつれて段階的に高度になっていくように組み立てられています。1年次には、「導入ゼミ」で専門知識を獲得するための「読む・書く・考える」という基礎的なリテラシー能力を育て、2年次には、「前期ゼミ(英書購読)」で、英語の文献から専門知識を学ぶのに必要な力を養います。3・4年次では「後期ゼミ」において、学生それぞれが選んだ専門領域に集中的に取り組みます。その過程で現実的な問題と抽象的な理論との間を何度か往復しながら、自分でものを考える力を身につけます。

 後期ゼミでの勉強の成果は、目に見える形では、各自が執筆する卒業論文として結実します。しかしそれだけではありません。ゼミでの学習で培った専門領域に関わる知見と、ものを考える力は、目に見えない一生の財産として自分自身の内に残り、社会人として生涯にわたって活用していくことのできる内なる財産になるのです。また、少人数で密度の高い時間を共有した指導教員と一緒に学んだ仲間とは、卒業後も生涯にわたって交流が続きます。

PACE、SSPなど
グローバル教育を展開

 ゼミ教育とともに、グローバル教育も商学部の大きな特色です。商学部が、外国人教師による少人数(15人程度)の英語授業を1年次に通年で週2コマ実施するようになったのは2013年度からのことです。PACE(Practical Applications for Communicative English)と呼ばれるこのプログラムは、英語コミュニケーション能力(聞き・書き・話す)を高めるとともに商学部の学生全体の底上げを図ったものです。

 ここで英語力を高め、さらにグローバルに活躍したいと思う人には、「渋沢スカラープログラム(SSP)」を用意しています。これは1年次末に15名ほどの学生を選抜し、2年次以降、英語によるゼミや専門科目の受講、ワンブリッジセミナーやメンター制度を通して学生個々の問題意識を醸成し、合わせて、リーダーとしてのネットワークの形成、世界トップレベルの大学院・MBAなどへの留学を推進しようとするものです。

 私の場合は、受験ぎりぎりで学びたい分野に出会えましたが、みなさんには、できるだけ早い時期に、こうした学問や学部の中身について調べていただければと思います。

 私は会計専門職を養成する会計学研究科(アカウンティングスクール)という専門職大学院の教員も兼務していますが、公認会計士などの会計専門家を目指す学生が多く、合格率が高いのも北大経済学部の大きな特色となっています。2013年は公認会計士試験で現役(4年生)合格者8人を輩出し、いずれも大手監査法人に就職しています。

社会や企業に対し
強い関心を持ってほしい

 商学部で学ぶには、何よりも社会や企業に対して強い関心を持っていることが必要です。また、企業や市場に関連する応用社会科学を理論的に深く理解し、現実の現象を実証的に分析するためには、高度な数理的・論理的能力が必要です。さらに、国際社会で活躍するためには、外国語によるコミュニケーション能力だけでなく一般的な言語能力が不可欠です。

 高等学校でこのような基礎を身につけることができれば、商学部での学びはより充実したものになります。やる気があって異なるバックグラウンドを持つ学生が多く集まり、それぞれの個性を尊重しながら相互理解する、このような学びで、国際的な舞台で当たり前に力を発揮できる人材を育てたいと考えています。

この記事は「螢雪時代(2016年11月号)」より転載いたしました。

この記事で取り上げた大学

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