page_top

「社会福祉学部の魅力って何?」岩手県立大学 狩野 徹先生

  • 【学部リサーチ 2016】 社会・社会福祉学部系統の総合的研究

既存の学問分野を包摂する実践の学問
冷静な判断能力、問題解決能力が身につく

《公立》岩手県立大学 社会福祉学部 学部長
狩野 徹(かのう とおる)先生

1957年神奈川県生まれ。横浜国立大学工学部建築学科卒業後、同大学院で修士(建築学)、東京大学大学院で博士(工学博士)。財団法人東京都老人総合研究所に勤務後、1999年岩手県立大学社会福祉学部に助教授として赴任。2005年教授、2016年学部長。専門は福祉工学、福祉のまちづくりで、東日本大震災後の仮設住宅や公共施設などへのユニバーサルデザイン導入で知られている。

援助の対象は
一人ひとり全部違う

 社会福祉学が、経済学や法学などの既存の学問と大きく違うのは、実践の学問だということです。資本主義とそれによる経済発展は、世界中の人々に繫栄と豊かさをもたらしましたが、反面、貧困や格差、女性や障害者の差別、住宅難などの社会問題を生み出しました。そうした社会問題を解決するために、多くの人々が努力を重ね、国や国際社会の法制度、政治制度、経済制度などを徐々に変えていったのです。

 努力しても貧困から抜け出せない人がいる。子どもをかかえて働くに働けないひとがいる。そういう人たちを何とかそこから救ってあげたい。そういう思いで、仕事を紹介したり、住宅を世話したり、緊急に必要なお金を用意したり、そうした実践から始まったのが、社会福祉であり、そうした実践を、経済学や法律学、政治などの既存の学問分野の知見で理論付け、体系化したのが、社会福祉学ということができるでしょう。

 社会福祉学は、このような点で非常に新しい学問分野であり、伝統的な学問のように理論を学んで応用すればいいというものではありません。貧困や障害、女性差別などは、その内容が一人ひとり全部違います。援助するには、その全体を理解し、その場で決断していく冷静な判断力が必要です。社会福祉学部は、そのような冷静な判断能力、問題解決能力を学ぶ学部といっていいかもしれません。

地域の問題を解決できる
人材を養成する大学

 社会福祉学部の教育内容を述べる前に、岩手県立大学について簡単に触れておきたいと思います。岩手県立大学は、1998年、日本の都道府県で北海道についで広い岩手県の、少子高齢化、過疎、農山漁村の人口減少、インフラ整備の立ち遅れ、医療・福祉の人材不足といった地域課題を解決するために誕生した大学です。

 福祉人材養成のための社会福祉学部に加え、看護人材養成のための看護学部、さらにコンピュータエンジニア養成のためのソフトウェア情報学部、地域の企業や公共団体で政策立案・運営にあたる人材を養成する総合政策学部の4学部という、東北地方の既存の国立大学などにない学部で出発したのはこうしたことが理由です。

 これら4学部に共通の特色は、いずれの学部でも少人数教育を行っていることです。たとえば、社会福祉学部では、1学年の定員90人に対して教員が39人。全学年合わせても教員一人当たりの学生数は10人以下です。また、地域との連携を重視し、様々な実習教育を様々な地域・機関で行っているのも共通の特色です。

 また、4学部すべてで、大学院博士前期課程(修士)、後期課程(博士)を設置し、研究者養成に力を入れているのも大きな特色です。日本では社会福祉分野で博士後期課程を設置している大学はまだ少なく(東北・北海道で4校)、この意味で、岩手県立大学は、実践的少人数教育と高度な研究をバランスよく行っている大学であるということもできます。

フィールドラーニングと
少人数教育が特色

 社会福祉学部は、社会福祉学科と人間福祉学科の2学科からなり、社会福祉学科には、福祉政策系、コミュニティ福祉系、臨床福祉系の3つの系(教育系)、人間福祉学科には、生涯発達支援系、福祉心理系の2つの系があります。

 たとえば福祉政策系は、自治体や福祉専門機関の福祉政策について研究することを目的としていますが、だからといって、それらに就職するにはこの系に所属しなければいけないというわけではありません。また、コミュニティ福祉系は、コミュニティや集団などの福祉について研究しますが、コミュニティ・ソーシャル・ワーカー(CSW)になるには、ここに入らなければならないというわけではありません。

 学科・系は、あくまで専門研究の体系で、3年次前期(人間福祉学科は2年次後期)に選択した系から志向・方向性が変われば、3年次後期(人間福祉学科は3年次前期)から系を変わることができます。また、所属した系以外の科目も自由に選択できます。

 実際、社会福祉学部の学生は、実習の機会が多く、実習先で働いて多くの人々に接することで、当初の志望と違う分野に就職していった人が数多くいます。大学は、多くの友人、恩師に出会い、自分の方向生を見つける場です。社会福祉学部の卒業生の進路にこれを如実に見出すことができます。

 社会福祉学部に入学した1年生は全員、社会福祉原論やソーシャルワーク論などを専門基礎科目として、児童福祉論や高齢者福祉論などを学部共通の基幹科目として学びます。

 2年次では、各学年に配当されている専門科目を学部共通科目として学ぶほか、社会福祉学科では、学科共通科目として「福祉調査基礎実習」を、人間福祉学科では、生涯発達臨床論(生涯発達支援系)、心理学研究法(福祉心理系)などを展開科目として履修します。

 3年次では「系」専門科目の履修に加え、専門演習、地域福祉調査実習(社会福祉学科)を行い、4年次では専門総括演習、卒業課題研究(卒論制作)などを行います。

 社会福祉学部では、すべての学科・系で社会福祉士国家試験受験資格を取得できます。現在、取得できる資格は、カリキュラム編成上2つまでに制限されているため、社会福祉学科の3つの系の学生および人間福祉学科福祉心理系の学生は、社会福祉士単独か社会福祉士と精神保健福祉士、人間福祉学科生涯発達支援系の学生は、幼稚園教諭と保育士資格を取得する人がほとんどです。

 先に県立大学の教育の特色が少人数教育にあることを紹介しましたが、社会福祉学部では少人数の演習を1年次から開始し、実習や実習前後の指導もほぼマンツーマンで行います。3・4年次の専門演習も5~6人で行われ、ゼミ間の交流も報告会を行うなど活発です。

 また、福祉施設などでの実習、地域の現場に足を運ぶフィールドワークなどを実施、地域と学生がともに学ぶ「フィールドラーニング」を目指した教育を行っています。実習やボランティアで地域に出かけることで、地域のニーズに応えたり、地域の課題解決を行ったりするにはどのような活動をすればよいかを学びます。また、地域の様々な人々と触れ合うことで社会性を身につけることができます。

豊かな自然と文化が
息づくキャンパス

 岩手県立大学は、岩手県の県庁所在地、盛岡市の西北、岩手銀河鉄道(IGR)滝沢駅(隣駅は石川啄木の生家がある渋民駅)から徒歩15分。岩手県のシンボル岩手山と姫神山を望む景勝の地にあります。盛岡市は、東北地方最大で日本でも4番目の大河、北上川が町の中心部を流れ、石川啄木が「不来方のお城の草に寝転びて」とうたった盛岡城跡が市民憩いの公園となっている自然豊かな文化都市です。

 私は、学生時代とそれに続く研究者時代を横浜、東京で送り、東北地方での生活は県立大学が初めてでした。最初は不安もありましたが、他の多くの同僚や学生たちと同様、豊かな自然と文化、人々の暖かいこころに触れ、すっかり盛岡・岩手のファンになってしまいました。

 私は、大学・大学院で建築学を専攻し、現在は、障害のある人々が健常者と同様の生活ができるためのユニバーサルデザインを専門としています。最初は立派な建物を作ることを目的に選んだ建築学科でしたが、設計課題で図書館建築のデザインを手がけ、そこで図書館の利用者は8割が高齢者と子ども、それなら高齢者などが利用しやすい図書館にしようと考えたのが、現在の専門につながっています。

 皆さんもご存知のように日本では、2013年に障害者差別解消法が制定(2016年施行)され、障害を理由に差別することはできなくなっています。ユニバーサルデザインは、もともと障害者も健常者も差別なく生活できるデザインを目指したものですが。この法律のおかげもあって、あらゆる分野に普及しつつあります。東日本大震災の仮設住宅や災害復興住宅や、盛岡市の中心ビルや花巻空港に、ユニバーサルデザインや利用しやすいトイレを導入する私たちの提案が実現できたのは、そうした社会環境の変化も大きいと感じます。

 社会福祉学部は、私のような理系分野も加わった間口の広い学部です。入ってみて、どのような未知の学問に出会えるか、どのような先生に出会えるか、わくわくするような学部です。そこで学ぶ岩手の課題は、日本全国の課題です。その解決に夢と情熱を持ち、人の話をよく聞いて冷静に判断できる人こそ私たちが迎えたいと思う若者です。

この記事は「螢雪時代(2016年9月号)」より転載いたしました。

この記事で取り上げた大学

螢雪時代 【定期購読】のご案内

国公立大&難関私立大合格!のために読む雑誌

★2018年入試の突破をめざす受験生向けの「スタート号(4月号)」は 3月14日発売です。

大学選びのための大学情報・入試情報と、合格するための学習方法を毎号満載し、志望校合格をめざす受験生を強力にサポートします。
現在、ステキなプレゼント付きの『定期購読キャンペーン』を実施中!!

【学部リサーチ 2016】 社会・社会福祉学部系統の総合的研究 記事一覧

大学トレンド 記事一覧

“岩手県立大学”の関連記事一覧