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「観光学部の魅力って何?」立教大学 毛谷村英治先生

  • 【学部リサーチ 2016】 社会・社会福祉学部系統の総合的研究
  • [2016/8/16]

グローバル化する世界で"居心地の良い日本"のつくり方を考えよう

《私立》立教大学 観光学部 学部長
毛谷村英治(けやむら えいじ)

1961年大阪府生まれ。京都大学工学部建築学科卒業後、同大学工学研究科建築学専攻博士課程修了。京都大学博士(工学)。同大学助手、コーネル大学客員研究員、宮城大学事業構想学部助教授、ハワイ大学客員研究員を経て2006年より立教大学教授。2015年に観光学部長に就任。建築企画および観光施設計画を専門研究分野とする。

日本の観光史と
旅館・ホテル研究

 まずは、私の専門についてお話ししたいと思います。私はもともと工学部の建築学科を卒業しましたが、この分野での研究対象は当初、集合住宅や学校、音楽ホールや劇場などの文化施設、あるいは駅舎といった、公共性の高いものに限られていました。最近になってようやく、古いホテルなど歴史的に保存すべき建築物について研究が行われるようになりましたが、建築学の分野では百貨店やブティック、ホテルなどの商業施設は長い間研究対象にしてこなかったのです。その中で、私は少し違うことをやってみようと考え、日本のホテルがどのように変わってきたかというようなことを研究してみましたが、それは建築学の世界ではある意味“異端”でした。それまで研究としては存在していなかった分野ですので、もの珍しさを買われてこの観光学部に呼んでもらい、現在に至ります。

 ホテルや旅館も他の商業施設と同様、いわゆる「建築計画学」の研究対象には入っていませんでした。それでも、丹念に調べてみれば色々と成果も出ますし、面白い研究になります。例えば日本の宿泊施設について見てみましょう。高度経済成長期に入り、人々は「団体旅行」をするようになります。バスを使って移動し旅館に泊まる慰安旅行や修学旅行などといった大人数での旅行が増え、日本人にとって、旅行をするということが「一般化」していきます。これに伴って旅館は大型化し、大広間を造ってそこで宴会をしてもらうというようなことが広まっていきますが、さらに時が経つと状況は変わり、特に若い世代を中心に、慰安旅行のような旅を好まなくなってきます。すると、それまでのようなスタイルの旅館は廃れて、ホテルが取って代わるようになります。旅館にはない洋風の生活空間を売りとするホテルは広く普及しますが、次第に一般の住宅にも洋室が普及し、自宅でもベッドで寝る生活が当たり前になってきました。これでは、ありふれた普通のホテルに行っても「物珍しさ」がありません。そうなると今度は、海外から高級なホテルが進出してきたりする一方で、かつては当たり前だった伝統的な旅館が「物珍しく」なってくるのです。このように、「日常では味わえないものを求める」という一つの選択パターンに従って、日本の宿泊施設の需要は変化しています。

 宿泊施設はもちろん旅行するために使うものですが、「旅行の目的」としての価値も見出されています。旅行の目的の一つとして、美しい建物や歴史的な場所など、特別な意味のある場所に行くということがありますが、“ユニークな場所”をあえて創り出して人を集めようという取り組みもあります。上野の国立西洋美術館は「美術品を見せるためのハコ」という美術館本来の用途に加えて、ル・コルビュジエ(近代建築の三大巨匠の一人として知られるスイス生まれの建築家)が設計した建物そのものを観に行くという新しい旅の目的が見出されています。ホテルや旅館についても同じ流れがあって、建物自体が旅行の目的になることがあります。そして、この建物の寄せ集めである「街」も、その“居心地の良さ”が人を引き寄せるようになってきているのです。

観光学部の歴史と役割

 立教大学の観光学部の歴史は第二次大戦が終戦を迎えた年の翌年、1946年に遡ります。敗戦国である日本には進駐軍が入ってきますが、宿泊需要の急増に対して宿泊施設もさることながら、宿泊客へのサービスを提供する人材が不足していました。その人材育成を目的の一つとして「ホテル講座」が開設されたのです。当初は欧米人旅行客向けのサービスについて学ぶ講座という形でスタートしたホテル講座ですが、その後ホテルや旅館の数が増えていく時代に入り、それらの経営をどうしていくかという観点から、1966年には社会学部内に「ホテル観光コース」が設置され、翌1967年にはこれを「観光学科」としました。

 経営者が自ら土地を買い、建物を建て、宿泊施設の運営まで行う初期の旅館・ホテルの経営スタイルは、今や当たり前のものではありません。当時の観光学科の役割もその経営教育にありましたが、近年ではそのスタイルが大きく変わっています。例えば駅前開発などの例で言うと、大手デベロッパー(開発事業者)が再開発の一構成要素として、ホテルを集合住宅や他の商業施設と併せて組み込むといったような形に変わってきています。ホテルの運営はホテル事業者がすべて行うというとは限らず、「ホテル学」として教育を行うことが難しい時代でもあります。この開発の例で言うと、ホテルが含まれた不動産を金融商品として扱う側面もあり、どちらかというと不動産経営学や金融工学を学んだ人の方が事業の中心に入っていきやすいとも言えます。観光産業の中で、大きな役割の変化が起こっているのです。

 当学の観光学部では、観光学を「ビジネスとしての観光」「地域社会における観光」「文化現象としての観光」の3分野として捉え、これらの教育に観光学科と交流文化学科の2学科で取り組んでいます。「ビジネスとしての観光」では「経営」の視点から観光を学びます。「地域社会における観光」とは、まちづくりや建物がもつ役割といった視点からの学びです。観光学科ではこれら2分野を中心に扱い、経営的に観光を捉える人材を育成します。3つめの分野「文化現象としての観光」は、観光が文化に及ぼす影響について考えます。中国などから多数の観光客が訪日する事象を例に取ると、これはビジネスの観点ではありがたいことですが、一方で観光客と地元住民との間に軋轢も生じています。交流文化学科では、この例のような相互の行き来による文化的な影響についても学びます。

 いま、日本は「観光立国」を掲げ、3000万人の外国人観光客を迎え入れようとしています。これは経済的に重要な目標である反面、迎える側の一般市民としては心配な面もあります。ここに問題が生じないようにするにはどうすればよいか、ということを考えていくのが我々の役割だと考えています。観光産業でお金を稼ぐことはもちろん大切ですが、その地域の人すべてが観光産業に従事しているわけではありません。観光以外の業種の人々と摩擦を起こさず、観光産業を持続的に成り立たせていくための方法をみんなで考えようというのが、本学観光学部の基本的なスタンスです。すでに存在する観光資源をうまく利用するということも大切ですが、今まで目を向けられていなかったものの中から観光の対象になりそうなものを“発掘”できるような教育をしています。

この国の観光業、これからの課題

 先ほどもお話ししたように、海外から日本を訪れる観光客の数はますます増え、観光業はより重要になります。ただ、その状況に対して業界の人手不足は大きな課題です。旧来から、日本の観光業界の雇用は、雇用する側が考える理想とは裏腹に、大卒者は今日でも就労者の多数を占める状況ではありません。大学進学率がこのまま上がっていけば、業界の人手不足はますます進むでしょう。この状況を解決するには、観光業界の伝統的な社員教育の手法に手を加えるだけでなく、休暇を自由に取得できる社会を作っていくことも必要なのではないかと考えています。

 観光業界の中でも特にホテル・旅館業界に大きな変化が起こっていることは先ほどもお話ししたとおりですが、特に「民泊」(戸建住宅や集合住宅などの民家の空き家や空室を宿泊用に貸し出す業態)については旅館業界からの強い反対がある一方、これまで宿泊業には関わってこなかった不動産仲介事業者などからも遊休資産の活用法として取り組む動きが出てきています。また、安価で手軽なインターネットでの旅行予約サービスの普及は、従来の旅行代理店の存在意義を問う状況をつくりだしています。いずれの変化も、不動産・金融・ネットビジネスなどにとって新たな市場やビジネスチャンスを生んでいる反面、既存の観光業界にとっては逆風とされ改革が迫られています。しかしながら、これまで旅行代理店がたくわえた豊富な旅行ノウハウなど、新規の業界が持たない要素を今後の観光業に生かしていく方法はあるはずです。

学部生、そして観光学部を志す
受験生に望むこと

 世の中では「グローバル化」が盛んに叫ばれています。グローバルというと日本から海外へ出て行くことを想像しがちです。これは意外に気づかれていないことですが、これからのグローバル化とは、日本に居ながらにして世界の人々と仕事をする状況になることも意味します。もちろん、海外に行って現地の人々とコミュニケーションをとることは経験として大切ですが、いまの日本はすでに同じことが国内においてできる状況にあります。観光学部の学生にはその機会を十分活用しつつ、「居心地の良い日本」をどうつくっていくかを考えてほしいと思います。本学の観光学部は、従来の観光ビジネスだけを目指しているわけではありません。観光とはどういうことなのかを大学で学んだあとは、それぞれの進路先において外国人や日本人の旅行者をもてなす、宿泊先を提供する、観光業に新規参入するなどいろいろな局面で、かつて学んだことを思い出してもらえればと考えています。

 最後に、受験生のみなさんにお伝えします。本学観光学部はその専門領域が幅広い、いわば「小さなリベラルアーツ大学」です。教養を身につけつつ、本当にやりたいことを多くの選択肢から見つけられる魅力のある学部だと思います。もちろん、やりたいことを見つけるには主体的に学ぶ姿勢が必要です。加えて、「人が好き、他人の立場に立って考えられる」人にぜひ入って来てほしいと思います。経営やモノの売れ行きなど、この学部で扱う対象はすべて人の判断や行動から生まれた成果ですから。

この記事は「螢雪時代(2016年9月号)」より転載いたしました。

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螢雪時代・12月号

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