歩き方、座るときの姿勢、呼吸、ちょっとしたクセ…
あなたが普段何気なくやっていることが、脳の本来の力を制限してしまっているかもしれない。
だが、体からのアプローチは、意識すれば簡単に変えられる。
脳の力を最大限に引き出すための体の使い方を伝授しよう。
監修:山本 邦子先生
脳の柔軟性を高めれば、可能性は大きく広がる
私たちは、無意識のうちに感覚に従っている。例えば、塾や予備校の教室の中で座る位置も、左側のほうが落ち着く、いつも気がつけば後方に座っている…など好み・クセがあるはず。しかし、入試では座席は指定され、自分の感覚に合った位置を選ぶことはできない。自分にとって最善ではない状況の中でも平常通り実力を発揮するには、普段から脳の柔軟性を高め、脳を自由に使える状態にしておくことが重要だ。「こうじゃないと集中できない」というこだわりは言い換えれば偏りであり、これをなくすことで「どんな状況でも集中できる」という自分を確立できる。人間の三大欲に続く四つめの欲が「選択欲」だといわれており、柔軟性があり選択の幅が広いことは精神的な安心感や充足感にもつながる。そして、脳の可能性が広がれば、学力が伸びる可能性もぐんと広がるのだ。
体の緊張を緩めることで、脳の緊張をコントロール
脳の柔軟性を高める一つめのポイントは、脳の緊張をとること。脳と体は連動しており、体が緊張すると脳も緊張し、脳が緊張すると体も緊張する。そして、この緊張状態が長く続くと、脳も体も動く範囲が狭くなってしまうのだ。
例えば、緊張したとき、あなたの体はどう反応しているだろうか。奥歯を噛みしめる、眉間にシワが寄る、手を強く握り締める…などと、クセがあるはずだ。こうしたクセを認識しておくと、緊張を解くのに役立つ。意識的に緊張感を解くのは難しいものだが、緊張と連動した動きを開放することで、緊張を開放することができるのだ。上記の例で言えば、あご、眉間、手の筋肉を緩めれば、緊張感を緩めることができる。つまり、意識的に変えられる体の動きから、感情をコントロールすることができるのだ。
大切なのは、普段から自分の感覚に敏感になること。自分が緊張したときのクセ、集中しているときや自信がみなぎっているときの身体感覚をつかんでおくと、その状態を解消したり作り出したりしやすくなる。
脳への入力を変えて、脳の使用範囲を広げる
二つめのポイントは、脳の働きに偏りをなくすこと。体の動きに偏りがあると、脳の使う部分が限られ、脳の働きにも偏りが生じる。「脳に使っていない部分がある=脳の持つ本来の力を発揮できていない」となってしまうのだ。
偏りを解消するためには、脳への「入力」をいつもと変えてみることが有効だ。例えば、勉強で近いところばかり見た後は遠くを見る、勉強場所を変える、使うペンを変える、利き手と逆の手を使う、いつもと逆の手でカバンを持つ…こうした変化が脳に刺激を与え、意欲や集中力などの脳の「出力」も変わってくるのだ。
脳の余分な緊張をとり、偏りをなくして、脳の力を引き出すために特に有効なのが、呼吸・姿勢・動作の3つからのアプローチ。以下に、理論と具体的な実践法を紹介しよう。
能力開発法 基本編① 呼吸
呼吸をコントロールして、脳のコンディションを調整
細く長く吐く深い呼吸で緊張をほぐし、脳に酸素を
呼吸は自律神経と密接に関係しており、呼吸をコントロールすることで心身の状態を調整することができる。そのためにはまず、自分の呼吸の状態を知ることが大切だ。集中しているときや緊張しているときには、肩が上がって呼吸が浅くなったり、呼吸が一時的に止まったりする。一方、リラックスしているときは呼吸が深くなっているはずだ。ため息やあくびをよくする人は要注意。脳や体に二酸化炭素が溜まり酸素が不足しているサインなので、深い呼吸でしっかり肺に酸素を取り込もう。
呼吸は深ければ良く、浅ければ悪いというものではないが、浅い呼吸が長く続く、つまり、心身の緊張状態が長く続くのは良くない。血液循環が悪くなり脳の血流が悪くなると、行動や思考が狭くなってしまうのだ。そんなときは深い呼吸で緊張をほぐし、脳に酸素を届けよう。
深い呼吸のコツは、鼻から細く長く吸い、口から細く長く吐くこと。極細ストローから少しずつ吐くイメージだ。ゆっくりと吐くことで、副交感神経が優位になり緊張が緩む。たくさん酸素を吸い込もうと、思いきり吸って思いきり吐く…というのは逆効果。勢いよく吸うことで交感神経が優位になり、興奮状態になってしまう。また、鼻から吸うことで肺に深く入りやすくなるし、ウイルスなどの侵入も防げる。
この呼吸法は、正しいやり方でやれば1回でも十分に効果がある。勉強に疲れて体も頭も固まってきたと感じたときや、試験会場で気持ちを落ち着かせたいときなど、ぜひ実践しよう。
脳が元気になる「深い呼吸」
緊張や疲労からおなかが固くなると、呼吸が浅くなる。みぞおちに両手を当て、手の温もりでおなかを柔らかくするイメージで呼吸しよう。
「深い呼吸」のポイントは?
〇鼻から細く長く吸う
⇒肺に深く入りやすくなる
⇒ウイルスなどの侵入を防ぐ
〇口から細く長く吐ききる
⇒副交感神経が優位になり緊張が緩む
×思いきり吸って吐く
⇒交感神経が優位になり興奮状態に
能力開発法 基本編② 姿勢
正しい姿勢で負担を減らし、脳環境を最適化する
軸を安定&胸を開いて、脳も体も快適な姿勢に
姿勢が脳に与える影響はとても大きい。良い姿勢の一つめのポイントが、胸を開くこと。背中が丸まって胸が閉じた姿勢でいると、脳内でコルチゾールというホルモンが分泌され、ストレスを感じやすくなる。不安や焦りなどネガティブな感情が生まれやすく、おなかに空気が入りにくくなり呼吸も浅くなってしまう。一方、胸を開いて顔を少し上げた姿勢をとると、コルチゾールの分泌が抑制されてストレス耐性が強くなる。そして、自信や前向きにチャレンジする気持ちが生まれるのだ。
もう一つのポイントが、体に余分な負担がかからず長く保てる姿勢であること。胸を開こうとして胸を張りすぎてしまうと背中が緊張し、目の負担増につながり脳にも影響してしまう。肩や鎖骨を真横にするよう意識すると、自然と胸が開く。さらに、全身を安定させるためには、骨盤、肋骨、肩、頭を囲む4つの輪(下図を参照)が下からまっすぐ積み上がるよう意識するといい。座るときも立つときも同じだ。骨格の軸が曲がると筋肉に負荷がかかり、緊張状態になる。そして、体が緊張することで脳も緊張し、活動しにくい状態になってしまうのだ。
座るときに重要なのが、両足裏をきちんと床に付けること。足裏が付いていることで姿勢が安定し、血液循環も良くなる。さらに、坐骨を持ち上げ、 脊柱を長くすることを意識するといい。脊柱を伸ばすことで、脳の働きも良くなる。体へも脳へも負担の少ない姿勢を心がければ、快適に勉強できて能率も上がるはずだ
正しい座り方
足裏は踏ん張らず、床をそっと押すくらい。水の上に浮いたレジャーシートの上に、シートが沈まない程度の力で足を乗せるイメージで。
正しい基本姿勢
胸が開き、骨盤・肋骨・肩の輪の中の空間を保てると、深い呼吸もしやすくなる。腹部に空気が入るよう、おなかをやわらかくする感じで。
能力開発法 実践編 動作
カンタン動作で疲労をリセット!脳の本来の力を取り戻す
背中・首・腰の緊張をほぐす
おなかに柔らかいボールやタオルを巻いたものを当て、椅子に座ったまま上半身を前に倒していく。みぞおちが柔らかくなるように細く長く息を吐きながら、首・背中・腰に意識を向け、頭と手の重さで背中が広がるのを感じよう。息を長く吐くことで自律神経が整い、緊張が緩和。
背中や首と目とは密接に関係しており、背中や首が緊張して固くなると目の緊張にもつながる。そして、こうした目の状態はダイレクトに脳に影響する(下のコラム【脳にダイレクトに影響!知っておきたい「目」の話】参照)。体が固くて伸ばすのがつらい人は、タオルを巻いたものをおなかに挟むとよいだろう。
ポジティブ思考に切り替える
椅子に座ったまま、腕を大きく回して胸を開き、そのまま天を仰ぐように腕を伸ばそう。胸を大きく開き、顔を上に向けることで、ポジティブな気持ちが生まれる。勉強に行き詰まったときや、不安な気持ちになったときなどに、ぜひやってみるとよい。
脳の圧迫・緊張を解除する
緊張により頭蓋骨や脳を覆う髄膜が固くなると、脳の働きが低下する。両手で頭蓋骨を挟み込み、上に持ち上げてみよう。これにより頭蓋骨の中にスペースができ、脳の置かれた環境を快適にする。さらに、手をいろいろな方向に動かし、皮膚の動きの固い方向に少し引っ張ってみよう。
耳のさまざまな部分を引っ張ったり、つまんだり、回したりして、横・上下・前後など、いろいろな方向に動かしてみよう。そうすることで、視神経に関わる蝶形骨という骨の周辺を緩めることができ、目や脳の緊張・圧迫を解除することができる。
血流を良くして、脳に酸素を届ける
ずっと座って勉強していると体内の血流が悪くなり、脳に酸素や栄養素が届きにくくなり、脳の機能は低下する。そんなとき、効率良く血流を良くする方法が、筋肉量の多い下半身を動かすこと。立ち上がって、その場で足踏みをするだけでも効果がある。
下半身をなるべく固定して、腕を左右に大きく振ろう。ダイナミックな動きにより血流が良くなる。脳への血流を効率良く上げるためには、息を全部吐き出し、息を止めた状態で、苦しくなる直前まで動くといい。これ以上息を止めて動けないところまで耐えたら、息を解放しよう。
脳にダイレクトに影響!知っておきたい「目」の話
勉強中は机の上の本など近くを見ることが多く、目が緊張状態になり、呼吸も浅くなりやすい。たかが目の疲れと侮ってはいけない。脳神経は12対あるのだが、視神経をはじめ4対は目に関係するものであり、目の状態はダイレクトに脳に影響を及ぼすのだ。例えば、目の緊張が高まり、視野が狭くなると、脳の思考も固く狭くなってしまう。また、目の緊張は肩や首、背中の緊張とも連動している。目の状態を改善するには、眼球の筋肉の使い方の偏りをなくし、全体を使えるようにすることが重要だ。眼球を上下・左右、ぐるりと一周、寄り目、遠くを見る…と動かし、しっかりメンテナンスをしよう。実力アップにつながるかも!?
この記事は「螢雪時代(2017年9月号)」より転載いたしました。
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