人が行動する動機を分析し社会の効率化を考える「優しい学問」大学卒業後も役立つ能力が身につく
《国立》岡山大学 経済学部 教授
釣 雅雄(つり まさお)先生
1972年、北海道生まれ。高崎経済大学経済学部を卒業後、一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程を単位修得退学。一橋大学経済研究所の助手を経て、2006年に岡山大学へ。2016年から教授。2017年、岡山大学グローバル・パートナーズ副センター長。2019年、岡山大学大学院社会文化科学研究科研究科長。
経済学とは、どのような学問でしょうか?
受験生の皆さんにとって、経済学はお金について学ぶイメージが強いかもしれません。しかし実際には、経済学ではとても幅広い範囲を学びます。敢えて言うならば、経済学とは人々の経済活動を分析する学問といえると思います。その中でも重要なのが、人は何に基づいて行動するのかというインセンティブ(動機)の分析です。
インセンティブについて説明すると、たとえば受験生の皆さんであれば、「どうやったら勉強するか」を考えるのもインセンティブの分析です。最近は勉強にもIT技術が取り入れられていますが、本当にIT技術があれば勉強するのか、と考えます。経済学では、このように一見経済とは関係なさそうに思えることも分析の題材になります。経済学はお金を扱うだけの学問ではないと皆さんにお伝えしたいです。
文系のほかの学問と比較すると、経済学ではデータの分析をよく行います。調査でインタビューなどをすることもありますが、インタビューは主観的なものなので、それをどう客観的な数値に直し分析していくか、というのが大切です。インセンティブという理論的なことも勉強しながら、データの分析にも力を入れているのが特徴です。
経済学の学問としての面白さはいくつかありますが、ひとつは直観と実態が異なることがあることです。個々にとってはよいと思われる経済政策でも、社会全体にとってはよくない影響が出ることがあります。不景気になると誰もが買い控えをして自分の所得を守ろうとしますが、その結果、守ろうとした所得が回りまわって低下してしまうということもあります。
経済学の2つ目の面白さは、効率化の学問でもあることです。経済学には社会の効率化を考える側面があります。世の中には大勢の人がいて、器用で優秀な人と自分を比べると「世の中は不公平だ」と思う人がいるかもしれません。しかし経済学の効率化は、どんな人でも社会における役割があると考えます。たとえばサッカーの才能がある人は、プロとして活躍することで経済的にも社会に貢献できます。一方でそこまでの才能がない人でも、相対的に自分の得意なことをやることで社会に貢献できる、ということが経済学では示されています。これはとても優しい考え方だと思います。経済学はギスギスした競争の学問という印象があるかもしれませんが、優しい側面もあるということをぜひ知ってほしいです。
経済学を学ぶ意義や、社会でどう役立つか教えてください
経済学は実学的な側面が強く、社会に出てからは、経済学的な発想そのものがビジネス上の正しい判断につながります。それは必ずしも経営者だけに限らず、会社員として営業する際も役立ちます。たとえば銀行員になった場合、中小企業の経営者らと相談しながら経営について考える場面などで、経済学の学びを生かした適切なアドバイスができるでしょう。
また経済学を学ぶことで、経済ニュースや社会の経済的な情勢を理解できるようになります。会社経営は経
済情勢の影響を受けます。それにどう対応していけばよいか、適切に判断できるようになるはずです。将来どんな仕事をするにしても、経済情勢の影響を適切に判断する力は役に立ちます。
経済学部ではプレゼンの機会が多いので、経済学では分析力に加えて、自分の考えをしっかり伝えるプレゼン能力も大切です。ほかの学部でもプレゼンはすると思いますが、経済学部ではグラフなどを示しながら行うので、実践的な力が鍛えられます。
経済学は世界中で学ばれている学問なので、国際機関などで勤めるときに、経済学の修士号や博士号が採用の条件になることがあります。国際開発の仕事でも経済学の知識が前提になるので、国際的に活躍したい人には経済学部で学ぶことをお勧めします。
経済学を学ぶうえで数学はどの程度必要でしょうか
「 数学が全くできない」という人は難しいですが、学部レベルでは高校の文系数学を理解していれば大丈夫です。ただ、高校数学の勉強を途中でやめた人だと、途中でついていけなくなるかもしれません。経済学には微分や統計は必要なので、受験生時代からしっかり勉強しておきましょう。
経済学は法学や文学と比較すると数学で対応できるところが多く、その意味では数学が得意だと楽ができる面もあります。海外留学した際も、数学で説明されるぶん、語学力が十分でなくとも理解しやすいのです。
ただし数学だけではダメで、経済学には人文学的な感覚も必要です。グラフや数式を説明する際、数学に頼る人は数字の背景にある意味をあまり考えないことがあります。グラフや数式を言葉によって解釈し、説明できる力が必要だということです。
釣先生のご専門について教えてください
主にマクロ経済学のなかでも日本経済と、日本経済に関わる経済政策が専門分野です。政府の財政に関することに関心があり、国家の借金とさまざまなことの関係を研究しています。
現代は少子高齢化が進み、政府に支えてほしい分野は多い一方で、高齢者が多い分、財源は限られます。社会保障だけでも毎年4割くらいは借金に頼っているのが実情です。もちろんそれをずっとは続けられないので、どうすればいいのかを研究しています。経済はさまざまなことが複雑につながっています。その複雑な事柄をできるだけ関連付けて考えなければ、経済政策は間違った結果になることもありえます。
受験生へのメッセージをお願いします。
受験生の皆さんの中には、「就職に役立ちそう」といった理由で、漠然と経済学部を志望している人もいるかもしれません。最初はそれでもいいですが、入学後は明確な目的を持って勉強することが大切です。岡山大学経済学部の学生にも、大学4年間の勉強を通じて大きく成長する人が多くいます。
皆さんはすでに十分受験勉強を頑張っていると思います。まずは志望校合格を目指して頑張ってください。入学後は楽しいことや役立つことを勉強できます。新型コロナウイルスの影響もあり、今年は「自ら勉強する」姿勢がとても重要です。勉強をコツコツ習慣化することで乗り切ってください。
経済学部では英語も数学も地歴・公民も必要なので、皆さんがいま勉強している受験科目がそのまま役立ちます。それをインセンティブにして志望校合格を目指してください。