学校現場で生きる実践的な指導力やコミュニケーション力を身につけ子どものため「学び続ける教員」へ
《国立》山口大学 教育学部 教授
霜川 正幸(しもかわ まさゆき)先生
山口県生まれ。中央大学文学部卒業後、1981年に山口県下松市立下松中学校社会科教諭。山口県教委事務局での勤務などを経て2004年に周南市立須金中学校教頭。2006年には交流人事教員として派遣され、山口大学教育学部助教授。その後正式採用を経て2014年に教授。専門は教師教育や地域連携教育。全国教育系大学「交流人事教員」の会会長。
教員養成系の教育学部ではどんなことを学ぶのですか
国立の教育大学や教育学部は、大きく教育学系と教員養成系にわかれています。山口大学のような地方国立大学の教育学部は多くが教員養成系です。
教員養成というと、受験生の皆さんはどんなイメージがあるでしょうか。ひょっとすると、教授から講義を受ける座学中心の学び方をしているイメージかもしれません。確かにかつて大学の教員養成は、実際の教育現場との関りは非常に少なく、座学が中心の学習でした。学校教育の現場の状況や課題、子どもたちの状態や保護者の意識などに触れる機会は、教育実習を別にするとほとんどなかったのです。
実際の学校現場で求められるのは、授業に必要な各教科の知識はもちろん、実践的な指導力や学校外の多様な立場の人たちと良好な関係を築ける人間性、そして「学び続ける教員」としての資質・能力です。座学中心で育てられた学生がいざ教員として現場に出ると、通用せず心が折れてしまうケースがたくさんありました。そうならないよう、現場で求められる力を大学での養成段階から身につけなければなりません。
現在の教員養成カリキュラムは、座学による知識の学習だけでなく、実際の学校現場とつながることも大切にされています。実際に自分の目で見て体験し、学生同士でその感想などを共有し高め合います。現場の教員や教育委員会の方々とも意見を共有・交換することもあります。このような一連の流れを通じて、学生は教員に必要な力をつけていくわけです。講義の一環としても学校現場に行きますが、空き時間などにボランティアで通う学生もたくさんいます。
私自身も中学校の教員経験がありますが、教員は生きた子どもたちを相手にする仕事です。学校現場にはハッキリしたマニュアルはありません。子どもたちの動きは常に個別具体的です。この子たちにとって一番いいことは何か、そのために何をさせればよいか、など瞬時に判断して教育していくという臨機応変な力が求められます。教員は受け身の姿勢では勤まりません。自分から動ける積極的・能動的な姿勢が必要です。現場での学習を重視しているのは、こうした積極的な姿勢を培うためでもあります。
また教員は人づくりの仕事でもあります。教員を目指す学生は、子どもたちを社会に必要とされる人材に育てるため、自分自身がそうした人材になることを目指さなければなりません。
教員養成系からの進路は小中高どれが多いのですか
国立大の教員養成系学部では、学校教員の中でも小学校や特別支援学校の教員になる学生がとても多いです。一方で、中学や高校の教員は、教育学部以外の学部で教職課程を受けた学生が多い。これは中学・高校では各教科の専門性がより重要であることが反映されています。一般学部で各教科の内容を専門的に学んだ学生の方が、中学・高校の教員採用試験には合格しやすい傾向があるのです。しかし教員養成系の教育学部から、中学・高校の教員採用試験に合格できないわけではありません。山口大学の教育学部にも、難関を突破して中学・高校の教員になる学生がかなりいます。
教員養成系学部の卒業生に小学校の教員が多い理由は、小学校では子どもとの関わり方が非常に重要だからでもあります。教員養成系では教育研究や指導法などを専門的に学びます。もし指導技術など教職の基礎をしっかり学びたいという人は、教員養成系学部に進むのがよいでしょう。
教育学部の学生の多くは、入学時点で自分がどの学校教員になりたいか、ある程度意識しています。もし小学校の教員になりたいという希望がある人は、国立大の教員養成系学部に進学するのが近道だと思います。教員志望の皆さんは、大学卒業後の進路も意識しながら進学先を検討してください。
山口大学教育学部の特長を教えてください
まずは4年間の学びの流れを説明します。1年次は他学部同様、共通教育科目やキャリア形成に関する学習です。2、3年次には教職や教科の専門科目を学びます。3、4年次には教育実習が入り、4年次に卒業研究を行います。4年後期には、学生に教員免許を出していいか最終判断する教育実践演習という重要な科目があります。
山口県の公立校は現在、全てコミュニティ・スクールです。これは学校だけでなく、家庭や地域が一体となってみんなで子どもたちを育てようという仕組みのこと。山口大学教育学部の卒業生の多くは山口県内で教員になるため、地域とともにある学校づくりを学部時代から専門の科目として学んでいます。山口県の学校現場で求められることを学生時代から学べる仕組みで、これは大きな特長だと思います。
1年次から現場の教員とつながることができるのも特長です。山口県教委と緊密に連携を取り、現場の教員の方々のお力を借りながら、実践的な教員養成を行っています。
「ちゃぶ台プログラム」という山口大学教育学部に独自の仕組みもあります。これは学生や大学職員、現場の教員や教育委員会の職員、地域の教育関係者らがちゃぶ台を囲み、同じ目線で意見を交わし、互いに学び合う仕組みです。幼稚園や保育園での活動や、小学校での活動など15種類の個別のプログラムがあり、プログラムごとに随時活動しています。私たち大学教員も、学生の意見や視点に刺激を受けることが多々あります。
受験生にメッセージをお願いします
教員という仕事には、子どもたちの学習・生活面の指導に必要な知識や技術の習得が求められます。そして子どもを理解する力や、ほかの教職員と連携し学校や子どもたちが抱える課題を克服していく力も必要です。しかしそれ以上に大切なのは、子どもに対する愛情や、教育に対する情熱や使命感、責任感です。
子どもたちはかけがえのない命、それも日々変化し揺れ動きながら成長しようとする命です。教員はそんなたくさんの命を預かり、関わっていく仕事です。決して「いい加減な態度」が許される仕事ではなく、その意味では厳しい仕事です。しかし、それ以上の喜びややりがい、楽しみがある仕事でもあります。「教育現場での仕事は厳しく苦しいのはよくわかった。それでもやはり、私は先生になりたい」という情熱や覚悟、子どもたちへの愛情がある人にとっては、教員は素晴らしい仕事であると言えます。
教員養成系学部での大学生活を通じて、子どもたちのため自身も成長できる教員を目指してください。