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学部長インタビュー「教育学部の魅力とは?」京都大学 稲垣恭子先生

  • 【学部リサーチ 2019年版】教育・教員養成・体育・健康科学部系統の総合的研究
  • [2019/10/7]

教育分野のリーダーを育てるのは
広い視野と異質なものへの理解

《国立》京都大学 教育学部 学部長
稲垣 恭子(いながき きょうこ)先生

広島県生まれ。京都大学教育学部教育社会学科卒業後、同大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。滋賀大学教育学部助教授、京都大学教育学部助教授、放送大学客員助教授などを経て、京都大学大学院教育研究科教授。2017年より現職。著書に『女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化』(中公新書)などがある。

稲垣先生のご専門について教えてください

 私の専門分野は「教育社会学」といいます。最近のトレンドでいうと、いわゆる「教育の格差」といったトピックはこの分野に含まれます。その中で私が取り組んでいるテーマは、学校教育だけでなくあまり「教育」としては意識されない、日常生活や家族間のコミュニケーションの中で文化としてつくられてきたもの、いわば学びの土壌となる「教育文化」を掘り起こし、見直していきたいと考えています。特に教養というものがどうやって身についていくのか、あるいは日本で教養がどのように文化として根付いてきたのかといったことに関心を持っています。たとえば「教養主義」という言葉がありますね。これまで教養主義と呼ばれてきたのは、旧制中学以来の男子に対する教育文化を軸にしたものでした。

 しかし、教養とは本当はもっと広いものであって、趣味の延長やコミュニケーション、社交の道具として培ってきたような教養文化もあるのではないでしょうか。教育社会学の用語では「文化資本」と言いますが、特に女性にとっての教養として伝達されてきたものに、なにかヒントがありそうです。従来のような教養主義とは違った、広く包括していけるような教養の系譜を見直すことで「これからの教養」について考えています。

 また、もう一つのテーマとして、「師弟関係」についても研究しています。先生と生徒の関係というのは、たとえば「指導して生徒の成績を上げる」といった、「限定された役割」によって成り立つ関係の部分が大きいですよね。ただ、たとえば職人さんなどの例だと、弟子に直接教えるわけではないけれど「背中を見て学ぶ」とか「あんなふうに仕事ができるようになりたい」といった「憧れ」の要素があります。そのような、人の生き様そのものから自然に学ぶということもまた、教育に欠かせない文化ではないかと思います。そうした観点で師弟関係というものを、日本における社会関係や人間関係の規範として見直していきたいと考えています。

 このように、社会全体を題材として教育や学びを考える学問というのが、私の専門分野です。


教員養成系でない教育学部で学べることは?

 いまお話しした私の専門がそうであるように、京都大学の教育学部は、もちろん教員養成に資する教育も行っていますが、もっと広い射程で教育・研究を行っているのが特徴です。

 本学の教育学部では、入学した年には全員が教育科学科という1つの学科に所属します。そこで「教育とは何か」ということをざっくりと学び、これからの4年間でやってみたいと思えるようなテーマがあるかを考えてもらいます。2回生になると各専門分野の概論を学びますが、この専門分野というのが非常に幅広く、対象とするのはもちろん教育でありながら、哲学・歴史・心理学・社会学・メディア学など、人文科学と社会科学のあらゆる方法論を使った領域が専門分野となります。その中から、どのアプローチならば、自分が興味をもっている教育現象を解くことができるかを考えるのです。そのうえで、3回生になって歴史や哲学、教育方法等を中心とする現代教育基礎学系、臨床心理学および認知心理学からアプローチする教育心理学系、社会学や政策論が中心となる相関教育システム論系のいずれかの系に進みます。そうして専門分野を学び、最終的には卒論を書くことになりますが、実はそこに大きな意味があります。専門的な視点から教育というものを対象化しつつ、広い視野から捉えることになるからです。

 本学の教育学部が人材育成のモットーとしているのは、いまお話しした「広い視野をもつこと」と「異質なものへの理解」です。規模は小さいながら、先ほど触れたような幅広い専門分野をもつ学部ですから、学生自身は専門的な学習をしますが、そこで扱うのと同じ教育現象を、隣接したり異なる専門分野が扱うとどのように見えるのかを垣間見ることができます。それを通じて、広い視野から俯瞰的に教育を見ることができ、同時に、違った考え方やものの見方も共感的に理解できるようになるのです。


教育学部は時代の変化にどう対応していきますか

 本研究科では「日本型教育文化の理論支援モデル」というプロジェクトを進行していて、グローバル化社会の中で教育を次世代へどう継承していくかという大きなテーマに、教育学研究科全体として取り組んでいます。あえて「日本型」と銘打っているのは、いわゆる西欧型のグローバルスタンダードに追いつくだけではなく、日本やアジア諸国の教育をめぐる文化の違いを無視しない形で、グローバルな教育の新しい可能性を探りたいからです。

 グローバル化というと英語が話せなければならないというイメージで語られることが多いですよね。確かに国際化社会では同じ言語で理解し合うことは大事です。一方で、私が無くしてはならないと思っているのは“沈思黙考力”です。会話のスピードについていくことだけがコミュニケーション能力ではありません。黙っていてもきちんと考え、時間の流れには遅れても、考えたことをしっかりと発言できること。そういう“深い”コミュニケーション能力も、グローバル化の時代だからこそ考えていかねばなりません。

 もう一つ、教育全体にかかわるテーマとしてAI(人工知能)の存在があります。たとえばロボットは教育者に取って代わることができるのか? ということがとても大きなテーマになっていますが、先ほど「師弟関係」についての話題でも触れたとおり、私たちはロボットに情報を教えてもらうだけで本当にものを考えたり創造できるようになったりするのだろうか、本当に幸せな社会をつくることができるのだろうかということは、この時代だからこそ考えなければならないと思います。


受験生へのメッセージをお願いします

 本学教育学部は、卒業後の進路としては25~30%くらいが大学院に進学しますが、それ以外の6~7割は一般企業に就職するなど、広い分野でリーダーとして活躍しています。

 ですから、本学教育学部に入学する人は、必ずしも教員志望でなくて良いと思います。ただ、ここまでお話ししてきたような広い意味で教育や日本の社会を考えたいという人にぜひ入ってきていただきたいと思います。自ら課題をもち、チャレンジしていきたいと望む知的好奇心のある人、いろいろな人とコミュケーションし、人から学びたい、「人間が好き」な人をお待ちしています。


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蛍雪時代

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