思いやりを持って、生活に寄り添いその人に合った方法で「健康」に導く

《公立》大阪府立大学 看護学類 学類長
田中 京子(たなか きょうこ)先生
専門は、がん看護。千葉大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒業。看護師として就業後、聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)大学院看護学研究科成人看護専攻 博士後期課程修了。同大助手、講師を歴任後、大阪府立看護短期大学講師。2001年大阪府立大学・大学院教授。2019年4月同大 看護学類長就任。
看護学は、どのような学問でしょうか
看護学は、人間の健康を扱う学問です。対象者の生活も見ながら、人それぞれに合った看護を実践して、その人を健康な状態に導きます。
「健康」というと、どのような状態をイメージするでしょうか。看護学では、単に病気や怪我などがない状態を指すのではありません。病気や怪我の有無に関わらず、人が心身ともに満たされて、社会生活をおくれる状態こそが、看護学が目指す「健康」です。
体の調子が優れて良い状態から、余命わずかといった状態まで、人の健康は連続性をもってつながっています。看護学はそうした人間の一連の健康を、より良い状態に導くために、人の生活を支え、人間らしく生きることをサポートするための学問です。
看護学は、身体的にも、心理的にも、社会的にも、満たされた状態になるように、療養を含めその人に必要な生活のあり方を考え、学ぶ学問です。体と心は相互作用していますから、心の健康についても学ぶことになります。
どのようなことを主に学ぶのでしょうか
看護学には、4つの主要な概念があります。ひとつが「健康」。疾病の有無を問わず、人の心・体・社会的な面のすべてに関わりながら、満たされた状態に導くこと。それは、さきほどお話ししたとおりです。
次に「人間」。人間をどう捉えるかを考えます。人間は、生まれて、成長発達し、最期に至るライフサイクルがあります。成長の段階ごとの特性や、人間がもつ社会性や多面性など、人間をさまざまな視点で考えます。
3つめが「環境」。環境は、その人の健康に大きく影響します。物理的な生活環境はもちろん、社会や地域、また、家族や友人といった人間関係も含めて、その人をとりまく環境をしっかり捉えることが求められます。
4つめが「看護」。思いやりをもってケアを提供することです。看護の対象者と良心的に関わって信頼関係を培い、その人の生い立ちや生活環境などについて把握しながら、その人に最適なケアを考えます。
このように対象者を総合的に捉えて、その個々に合った看護のあり方について学びながら、看護実践能力を磨いていきます。看護師でイメージされるような、注射を打つ、血圧を測るといったことは、看護師の技術のごく一部でしかありません。人間について幅広く学ぶことが看護の土台となります。
相手に最適な看護を行う上で大事なことは?
看護の対象となる人間は、個別性のある存在。それまで積み上げてきた経験や、とりまく環境などの影響を受けて、その個性は形作られています。その個性を捉えて、その人に最適な看護のあり方を考える必要があります。同じ症状でも、人が異なれば、求められる看護のあり方は異なるからです。
人それぞれに最適な看護を実践するには、その人の「生活歴」がわかっていないといけません。それは、その人との関わりの中で、つかんでいくもの。とは言っても、信頼関係がなければ、なかなか相手は心を開いて自分のことを話してはくれないでしょう。
その人の喜びも苦しみも、痛みも一緒に分かち合おうとする気持ちが看護師には必要です。そうして相手に真剣に向き合って、打ち解けて、コミュニケーションを交わす中で、その人の個性や環境などをトータルに捉えることができます。
そのために大学で学ぶべきことは何でしょうか
会話の中で相手の個性を見抜けるようになるには、人間を総合的に、科学的に学ぶことが必要でしょう。それには、幅広い教養を身につけることです。
看護学は、人間を総合的に学ぶ学問でもあります。医学、心理学、人間関係論、社会学など、人間に関わるあらゆる学問が学びの対象です。そうした幅広い教養がなければ、そもそも会話が続かず、相手の生活歴や、生活の状況を相手の言葉から理解できません。
人と話す技術も大事なスキルと言えるでしょう。それは、普段から家族や友人など身近な人との交流の中で意識的に身につけていけるもの。大学では多くの友人を作ってほしいです。
もちろん、それらだけでは看護はできません。看護師は医療者なので、医学や医療に関わる高度な知識や技術が必要なのは言うまでもありません。疾病や心の不調などの原因を、心身の仕組みから医学的に理解していないと、正しい対処ができません。
貴学 看護学類の強みについて教えてください
本学看護学類は、臨床での教育を大切にしています。そのため本学には、臨床で高い実績を持った教員が多く在籍しています。また、専門看護師の資格を持ち、看護の各分野に精通した教員もいます。そうした教員たちが親身になって実習指導を行っています。実習では1人の教員につき学生は5名~10名で、少人数で指導を行う体制を整えています。
そして、多岐にわたる分野で看護の研究が行われていること。各分野における最新の知識や技術を身につけるのに最適な教育環境です。
4年次には「総合研究」がありますが、そこで学生は、関心のあるテーマをひとつ選び、それについての研究論文などを読み込み、データを集め、分析を行うなど、各自の研究を進めます。ここで物事を客観的に、科学的に、また、批判的に見る視点を磨いていきます。大学で看護を学ぶ意義は、こうした研究的な視点を持てることだと思います。
これから進路を考える受験生にメッセージを
人間が好きなら、ぜひ看護学を学ぶ道にチャレンジしていただきたいです。看護学は、いろいろな方たちとの出会いを通して、自分の人生も豊かになれる学問だと感じています。臨床に出れば、赤ちゃんからご高齢の方まで、あらゆる年齢層、経験をお持ちの方との出会いがあります。看護師は、日々さまざまな人生に触れることができる貴重な職業だと思います。
人と接する上での難しさ、高度な医療を学び続ける大変さはありますが、学ぶ目的がはっきりしていれば、大変さよりも、わくわく感のほうが大きくなり、学ぶことが楽しくなるものです。大学には、同じように人間が大好きな仲間たちがいます。困難は、仲間たちと一緒に乗り越えられます。「自分は人に何ができるのか」、それを考えながら、自分の人生も豊かにできる看護の魅力を知ってほしいと思います。