「高大接続」の新たな取り組みに期待!
「高大接続テスト(仮称)協議・研究委員会」の設置、「大学発教育支援コンソーシアム」が始動

旺文社 教育情報センター長 大塚

2008年11月4日更新

   近く答申される中教審の『学士課程教育の構築に向けて』(答申案、20年10月)で提起されている「高大接続テスト(仮称)」の協議・研究委員会がこのほど、設置された。
   「高大接続テスト(仮称)」は、高校生の学力を客観的に把握し、推薦・AO入試や高校での学習のマイルストーン、大学での初年次教育などに幅広く活用できる新しい学力検査として注目されている。
   他方、教育再生会議(18年10月〜20年1月)で提起された「大学発教育支援コンソーシアム」も動き出した。高校の教材やカリキュラム等の研究・開発、教員の研修・養成などを大学等が相互に連携して支援していく取り組みだ。

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   <「高大接続」がもつ2面性>
   「高大接続」とは、大学への進学希望者が高等学校教育から大学教育へ円滑に移行することができるよう、高等学校と大学が連帯してそれぞれの責任を果たすことである。
   ここでの「接続」はアーティキュレーション(articulation;節)を意味し、"つながり"(連続)と"区別" (不連続)の2面性をもつ。
   "つながり"としては、アドミッション・ポリシーに基づく入学者選抜(入試)の実施や、高大連携によるカリキュラム改革(出前授業や科目等履修生制度、高等学校で大学レベルの科目を受講し、統一試験に合格すれば大学入学後に単位を認定するAP<アドバンスド・プレースメント;Advanced Placement,アメリカでは50年以上の歴史があり一般的だが、日本では未発達>の確立等)、初年次教育、リメディアル教育などが挙げられる。
   一方、"区別"する面に着目すれば、高等学校教育と大学教育とのそれぞれの目的・目標、特性、機能などの明確化がある。


   <大学入試の機能>
   高大接続と大学入試とは上記のように同義ではないが、大学入試は高等学校教育と大学教育とをつなぐ"架け橋"として、中心的な役割を果たしている。
   大学入試は、「入学者の"選抜"」と「学力の"把握"」といった機能をもち、その比重の掛け方などによって、次のように「一般入試」、「推薦入試」、「AO入試」に大別される。
   なお、「学力」の重要な要素としては、(1)基礎的・基本的な知識・技能の習得/(2)知識・技能を活用して課題を解決する思考力・判断力・表現力等/(3)学習意欲、が挙げられる(学習指導要領の改善等に係る中教審答申(20年1月)より)
・一般入試=調査書や小論文・面接等のほか、学力検査(学科試験)を第一義として重視し、"学力把握"と"入学者選抜"の機能にそれぞれ同等の比重が掛けられている。
・推薦入試=高等学校長の推薦に基づき、原則として学力検査を免除し、調査書を主体に、小論文・面接等で判定する。"選抜"機能は低く、"高校長の推薦"に重きが置かれている。
・AO入試=詳細な書類審査と丁寧な面接等を組み合わせ、学力検査に偏らず、志願者の能力・適性、意欲等を総合的に判定する。"選抜"機能より、"人物重視"といえる。


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<選抜方法の多様化と機能低下>
   大学入試は評価尺度の多元化とともに、選抜方法の多様化も進んでいる。大学入学者は、どのような入試方法で入学してくるのか。
   20年度の場合、「一般入試」が55.9%(私立大48.6%)、「推薦入試」が35.4%(私立大41.2%)「AO入試」が8.0%(私立大9.6%)となっている。とくに、私立大では「推薦・AO入試」入学者が50.8%で、学生の二人に一人は"推薦・AO入学者"だ。
   ここで問題視されているのは、入試が果たしてきた機能の低下である。大学入試はこれまで、その「選抜機能」や「学力把握機能」によって、入学者(入口管理)や高等学校教育の質保証に関し、一定の効果をもたらしてきた。
   しかし、大学受験生の9割以上が入学を果たす「全入時代」(20年度「収容力」=90.6%)といわれる中、学力検査重視の「一般入試」は縮小し、"学力不問"とまで指摘される一部の「推薦・AO入試」が拡大。私立大の47.1%(20年度)が"入学定員割れ"に陥っている。
   こうしたことから、中教審の『学士課程教育の構築に向けて』(20年10月29日答申案。以下、『学士課程答申案』と略)では、「大学の入口管理と、高等学校教育の質保証を、大学入試の選抜機能に依存し続けるならば、大学及び高等学校の双方に大きな影響を及ぼすことが懸念される」と指摘している。


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<「高大接続テスト(仮称)」の提起>
   中教審の『学士課程答申案』では、上述のような大学入試の現状を鑑み、大学に対してはいかなる入試方法であっても基礎学力の把握が適切に行われることを求めており、国に対しては、高等学校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組みづくりについて、高大接続の観点からの取り組みを求めている。
   この新たな仕組みが、中教審の「高等学校と大学との接続に関するワーキンググループ」(以下、WG)の「議論のまとめ」(20年1月)で提起された「高大接続テスト(仮称)」である。
WGでは、"学力不問"とまで指摘されている一部の推薦・AO入試の改善策として、
   (1)学力検査の実施(大学間の連携、協同実施などを含む)
   (2)センター試験の利活用(出願資格、合否判定)
   (3)資格取得や検定試験の利活用(出願資格、合否判定)
を例示し、このうち少なくとも一つは、学力把握装置として講ずるべきであるとしたうえで、さらに、新しい学力把握装置の一つとして「高大接続テスト(仮称)」を提起した。このテストは、推薦・AO入試などの大学入試のほか、高等学校の指導改善や大学の初年次教育などに高等学校と大学が任意に活用できる学力検査として位置づけている。
○ 中教審、「高大接続テスト(仮称)」の十分な協議・研究求む

   この中(編集部注.「WG」が提起した「議論のまとめ」)で提言している「高大接続テスト(仮称)」に関しては、学力を客観的に把握する方法の一つとして一定の意義があると考えられる一方、高等学校教育の在り方との関係上、留意すべき点も種々あることから、高等学校及び大学関係者間の十分な協議・研究が行われることを期待する。また、この新たな仕組みも含めて、今後、高等学校教育全体の質保証に向けた取組みが進められることを望みたい。 なお、本審議会は、このテストを導入すれば学習意欲や学力が育成されたり、大学入試の選抜機能が回復したりするなど、高等学校との接続の課題が直ちに解消すると考えているわけではない。大学全入時代における学習意欲や学力の育成、大学入試の改善は、学力を客観的に把握する様々な指標に関し、各高等学校・大学・大学進学希望者がいかに有効に活用するか、その努力にかかっている。 

(『学士課程答申案』より)


<「教育再生懇談会」の提言>
   政府(内閣府)主導の「教育再生懇談会」(座長・安西祐一郎慶應義塾長=中教審大学分科会長)は、「高大接続テスト」に関して、次のような提言を出している(20年9月22日)。

   ◆大学進学者の学力担保
   ○一部の大学が推薦・AO入試に名を借り、学力不問で多数の学生を受け入れている現状は妥当か。
   ○高卒段階での学力担保として、「高大接続テスト」の検討を含め、どのような仕組みが必要か。
   (例)大学入試センター試験よりも一層基礎的な内容の「高大接続テスト(高卒程度基礎学力テスト)」を新たに実施し、推薦・AO入試など学力試験を課さない場合には、最低限このテストを入学者選抜に利用するよう推奨する。

<「高大接続テスト(仮称)」の協議、調査・研究>
   ○ 協議・研究委員会の設立
   ・文科省は提起された「高大接続テスト(仮称)」に関する学力把握装置の新たな仕組みを調査・研究するための事業を、20年度「先導的大学改革推進委託事業」として公募。
   その結果、北海道大の「高等学校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組みに関する調査研究」が選定され、「高大接続テスト(仮称)協議・研究委員会」(以下、協議・研究委員会)が20年10月に設置された。
   ・協議・研究委員会は、国・公・私立大、大学入試センター、教育委員会、全国高等学校長協会、高等学校PTA連合会の各団体代表など、総勢20名余りで構成。
   協議、調査・研究の実施期間は22年9月までの2年間で、その間に「中間報告」が出される模様だ。
   ○ アプロ−チ等
   ・協議・研究委員会は中教審の審議を踏まえたうえで、大学入学時に求められる高等学校段階での学力の水準(標準性)や、高等学校における普通教育の一般的な状況を検討。さらに、大学入試における共通テストのこれまでの経験の蓄積の確認等を通じて、高等学校と大学との望ましい接続の在り方を展望するという。
   ・協議・研究委員会では上記のような展望に対応して、(1)高等学校での標準的学習、及び大学(学士課程)での教育に対応する教科・科目の範囲と望ましい達成水準を調査、研究/(2)そうした達成水準を客観的に測定するのに相応しい実施方式を検討/(3)現行センター試験との関係等について協議・研究し、実行可能でかつ受容可能な「高大接続テスト(仮称)」の在り方を明らかにする、としている。
   また、アメリカのSAT(Scholastic Assessment Test;大学進学適性試験)やイギリスのGCE(General Certificate of Education;大学入学資格試験)、フランスのバカロレア(大学入学資格試験)など、外国の事例についても調査し、提言はオプションとして複数の試案が提起されるものとみられる。
○テストの方向性
   (1)大学入学者選抜、とりわけ「推薦・AO入試」への活用
   「高大接続テスト(仮称)」には前述のように、まず、推薦・AO入試受験者の学力把握(基礎学力の担保)装置としての活用がある。
   そのため、このテストの実施時期は、現行センター試験の1月中旬実施より早期、年内実施となるのか。以下に、検証してみる。
   まず、現行の推薦・AO入試、特にセンター試験を課す国公立大の現状をみてみる。
*センター試験(以下、セ試)を課す推薦入試:
・国立大31%、公立大13%(21年度学部単位。私立大はほとんど課さない)。
   なお、セ試を課すAO入試も国公立大が中心。
*セ試を課す推薦・AO入試のタイトな試験日程(国公立大):
   セ試実施(1月中旬) → 国公立大2次出願(1月下旬〜2月初め。セ試課す推薦・AO入試受験者も不合格に備えて2次出願しておくのが一般的) → セ試成績請求・提供(2月始め〜2月上旬) → セ試課す推薦・AO入試の結果発表(2月上旬まで) → 推薦・AO入試の合格者入学手続(セ試課す、セ試免除含め、2月中旬まで) → 推薦・AO入試合格者・入学手続者を大学入試センターへ通知(2月中旬まで) → 推薦・AO入試合格者・入学手続状況資料の請求・提供(2月下旬、前期試験の前日まで。推薦・AO入試の入学手続者は他大学・学部(前・中・後期試験)の合格者となりえない) → 2次試験「前期日程」実施(2月25日から)
*上記のようなタイトな試験日程で、現行センター試験を推薦・AO入試に活用するのは、現状の実施規模が限度であろう。
   年内に合格・不合格が決まってしまうセンター試験を課さない推薦・AO入試(ほとんどの私立大)に、1月中旬実施の現行センター試験を一斉に課すとすれば、試験日程上からも受験生、大学側に多大な混乱を招くことになろう。
*それでは、現行センター試験を推薦・AO入試にも広く活用できるよう、年内に実施してはどうか。センター試験の「年度内複数回実施」については、旧・大学審答申『大学入試の改善について』(12年11月)や教育再生会議の第2次報告(19年6月)でも提言されており、大学入試センターなどでこれまで検討されてきた課題である。しかし、高等学校・大学側にとっても難しい問題があり、実現には至っていない。
* 以上のようなことから、「高大接続テスト(仮称)」を現行センター試験に替えて、私立大も含め、推薦・AO入試に広く活用できるようにするためには、センター試験より早期の年内実施となろう。
(2)高校生としての標準的(基礎的・共通性)学力の把握、学習意欲の高揚
   「高大接続テスト(仮称)」は推薦・AO入試を主体に、大学入試への直接的な活用のほか、高等学校における大学進学希望者の学習の客観的指標、すなわち"学びのマイルストーン(里程標)"としての活用がある。
   高校生としての共通の基礎学力を把握し、その成果を学習指導の改善や進路指導、大学での初年次教育(リメディアル教育)などに役立たせる。こうした取り組みは、高校生の学習意欲の向上にもつながると期待される。
○ 高等学校教育のミニマム・リクァイアメントと共通テスト
   「学力」の要素は前述のように、知識・技能の習得と、その知識・技能を活用して課題を解決する思考力・判断力・表現力、及び学習意欲である。
   また、学習指導要領の改善等に係る中教審答申(20年1月)によると、「高度な普通教育」及び「専門教育」を施す高等学校においては、普通教育として、すべての生徒に対し、日常生活を営む上で共通に必要とされる知識・技能を習得させ、それを活用する能力を伸ばし、調和のとれた人間の育成を目指す必要があることから、引き続き、必履修教科・科目を設定することが適当である、とされている。
* 高等学校教育の多様化、義務教育化:
   中教審答申では、学力や高等学校教育について上記のように言及している。しかし、高等学校教育の多様化(20年度生徒数:普通科72%、専門学科23%、総合学科5%)は拡大の一途を辿り、高等学校への進学も義務教育化(20年度高校進学率98%)に達している。
   こうした現状で、高等学校教育のミニマム・リクァイアメント、つまり高校生としての"学びの共通性"を共通テストでどう扱うのかが大きな課題となろう。
*出題範囲・出題(解答)方式等:
   全ての高校生に必要最低限な知識・技能として、出題教科・科目はどのように設定されるのか。「共通必履修科目」(国語総合、数学T、コミュニケーション英語T)及び「選択必履修」(地歴、公民、理科)におけるそれぞれの出題範囲はどうなるのか。
   また、学力の重要な要素でもある、思考力・表現力等を育成するのに相応しい試験の出題(解答)方式はどういう形になるのか。マークシート方式の限界も指摘されている。
   さらに、「高大接続テスト(仮称)」が実施されると、特に推薦・AO入試対策の取り組みが一層早期化し、高等学校教育(カリキュラム等)への圧迫なども懸念される。




   こうした懸念や課題を克服し、高等学校・大学双方にとって、「高大接続テスト(仮称)」の実効ある活用を期待したい。
   「高等学校・大学は選抜だけでつながる関係から、客観的できめ細やかな学力の把握とそれに基づく適切な指導によって学力向上が図られるよう、共に力を合わせて取り組む関係へと転換することが求められている」(『学士課程答申案』より)。


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<「高大接続」に関する新たな取り組み>
   「高大接続」に関する新たな取り組みとしては、前述の「高大接続テスト(仮称)協議・研究委員会」のほか、東京大の「大学発教育支援コンソーシアム」と国立大学協会(以下、国大協)の「高大接続検討作業チーム」による3件が挙げられる。
   ○ 東京大=「大学発教育支援コンソーシアム」
   東京大の取り組みは、教育再生会議(18年10月〜20年1月)の第2次報告(19年6月)で小宮山宏委員(東京大総長)が提起した「教育院」構想が基になっている。この構想は、教育再生の鍵は現場の教員と時代に即応した教材、教具の充実にあるとし、教材・カリキュラム等に関する研究、教員研修、教員養成を相互に連携させつつ行う大学等の共同ネットワークの構築である。「教育院」は第3次報告(19年12月)から「大学発教育支援コンソーシアム」と名称変更された。東京大では20年7月、他大学や自治体からの参加も得て「大学発教育支援コンソーシアム キックオフ シンポジウム−大学発学校行き:未来の教育のために」を開催し、ネットワークのハブとして動き始めた。
   ○ 国大協=「高大接続検討作業チーム」
   国大協の入試委員会では「高大接続検討作業チーム」を設置し、大学入試も含め、高大接続の在り方を検討している。
   大学進学希望者の学習意欲を高めるため、高校生への学問の動機づけとして、例えば、前述したAP(アドバンスド・プレースメント)などについても議論されているようだ。今後、上記の「大学発教育支援コンソーシアム」なども視野に、幅広く検討していくとみられる。