旺文社 教育情報センター長 大塚

2008年10月3日更新

   "証拠(データ)に基づいた( エビデンス・ベイスド;Evidence-based ) "議論や施策は重要であるが、そのデータの背後にあるウラ側の部分を読み解くことも大事だ。
   文部科学省がこのほど発表した『平成20年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要』によると、私立大の志願者数(一般・推薦・AO入試等)は前年より約3万7,000人、1.2%増の約305万8,600人(延べ数)で、入学者数は募集人員を約2万3,000人(5.2%)上回った。また、日本私立学校振興・共済事業団の資料でも志願者数は1.3%増の約306万2,800人で、入学定員充足率は106.5%だった。高校卒業者数が5.1%も減少した中、私立大全体としてはまずまずの状況であったといえる。
   しかし、一方では、私立大の半数近くが入学定員割れという深刻な事態に陥っている。
   私立大の大規模校と小規模校の入試データなどを例に、データの"オモテ"と"ウラ"を探ってみる。

   <「オモテの顔」と「ウラの顔」>
   一般的に、表示されているデータのウラ側には、その基になる複数の資料(数値)が存在していることが多い。
   ある「項目」の表示データは、その項目における個々の資料(数値)の「代表値」として、それぞれを加算した数値や平均値などがしばしば使われる。そのため、数量の大きい個々の資料ほど、代表値に大きな影響を及ぼす。
   つまり、ある項目の全体像を示すデータは、「"大"が"小"を飲み込んだ形」として、いわば「オモテの顔」を映している。入試状況を示すデータにも、「オモテの顔」がしばしば使われるため、ウラ側にある個々の資料、いわば「ウラの顔」が見落とされがちになる。


   <志願者「2.0%増」の検証>
   例えば、私立大の大規模校(A大学)と小規模校(B大学)を合わせた志願者数が19年=8万1,000人→20年=8万2,620人であれば、「志願者は1,620人、2.0%増えた」ことになる。
   次に、A大学、B大学それぞれの志願者数の増減をみる。
   A大学は19年=8万人→20年=8万1,820人で、1,820人、2.3%の増加。B大学は19年=1,000人→20年=800人で、200人、20.0%の減少である。(図1参照)
   A・B大学を一括りにしたデータ(「オモテの顔」)では大規模校であるA大学の資料が大きく影響し、「2.0%増」と表示される。
   しかし、「ウラの顔」をみると、小規模校の「20.0%減」の実像が浮かび上がってくる。


大規模校・小規模校、合わせて志願者”2.0パーセント増”の検証


<入学定員充足率106.5%、志願倍率6.8倍の検証>
   日本私立学校振興・共済事業団の『平成20(2008)年度私立大学・短期大学等入学志願動向』(20年7月)によると、私立大全体の「入学定員充足率」は106.5%で、入学者数は入学定員を6.5%上回っており、"定員を充たしている"状態だ。
   また、志願倍率(一般・推薦・AO入試等含む)も前年よりややアップの6.8倍で、低いとはいえない。
   こうした「オモテの顔」とは別に、大学の規模別の動向(「ウラの顔」)をみると、入学定員充足率及び志願倍率とも、「入学定員800人」が大きな分岐点となっている。
   「入学定員3,000人以上」(23校)の大規模校の入学定員充足率は113.83%で、以下、「1,500人以上〜3,000人未満」=115.49%、「1,000人以上〜1,500人未満」=109.46%、「800人以上〜1,000人未満」=110.31%。「入学定員800人以上」の大学では、入学者数が定員を10%程度上回っている。
   これに対し、「入学定員800人未満」の大学では、規模別の全ての区分で充足率100%を割り込み、"定員割れ状態"にある。
   一方、志願倍率も「入学定員800人未満」は2倍台〜3倍台と低いが、「入学定員3,000人以上」では11.87倍と高倍率である。(図2参照)
   なお、「入学定員3,000人以上」の大規模大学23校(全校数の4.1%)の志願者数は約151万3,000人で、全志願者の49.4%を占め、"強い大規模校の寡占化"を示している。
   "入学定員割れ"の大学数は565校中266校で、全体の47.1%に達する。しかし、全体の「入学定員充足率」(<全入学者数÷全入学定員>×100)では、大規模校の数値が大きく影響し、入学定員充足率は100%以上となる。
   志願倍率(<全志願者数÷全入学定員>×100)についても同様であり、志願者の集中する大規模校が大きく影響して、「6.8倍」という決して低くない倍率を示している。

入学定員規模別の入学定員充足率&志願倍率



<格差の拡大、二極化の進展>
〇 私立大の競争率の実態
   以上のように、データの「ウラの顔」をみることで、入試においても格差の拡大や二極化の進展を読み取ることができる。前述の図2では、入学定員規模別の「志願倍率」の実態をみたが、私立大「一般入試」における「競争率(実質倍率)」からも受験生の"集中"と"分散"といった二極化の様相がうかがえる。
   図3は、旺文社が集計した私立大489校を大学単位の競争率グループ別に区分し、19年と20年のそれぞれの大学数を示したものである。20年は「5.0倍以上」と「1.9倍以下」の大学が増加し、他のグループは減少している。つまり、大学全体の競争率(「オモテの顔」)は19年「3.4倍」、20年「3.5倍」と表示されるが、その「ウラの顔」をみることで、競争率の高い大学と低い大学との格差の拡大や二極化の進展を読み取ることができる。


私立大「一般入試」の競争率グループ別大学数の比較(19-20年)


○ サラリーマンの平均年収437万円の実態
   ところで、国税庁はこのほど、公務員などを除いた民間企業で働く給与所得者(サラリーマン)の平成19年分(1年間)の給与実態を公表した。
   それによると、1年を通じて勤務した給与所得者数は4,542万5,000人(対前年比1.3%増、58万人増)、給与総額は198兆5,896億円(同1.8%増、3兆5,743億円増)で、1人当たりの平均給与は437万2,000円(同0.5%増、2万3,000円増)となり、平均給与は10年ぶりに増加に転じたという。
   こうした「オモテの顔」をみせられて、どれほどのサラリーマンが給与アップの実感を得たであろうか。そこで、「ウラの顔」である年収階級別の所得者数と構成比をみよう。
   まず、平均年収の437万円に該当する階級(400万円超〜500万円以下)の所得者は631万3,000人で全体の13.9%に過ぎない。年収400万円以下の所得者は2,511万1,000人で55.3%を占める。つまり、平均年収の437万円に満たない所得者が全体の半数以上に及んでいる。
   また、平成15年分と19年分における年収階級別の所得者数を比べてみる。
   (1) 年収200万円以下:15年=902万1,000人→19年=1,032万3,000人(14.4%増)
   (2) 年収200万円超〜1,000万円以下:15年=3,343万1,000人→19年=3,277万5,000人(2.0%減)
   (3) 年収1,000万円超:15年=221万1,000人→19年=232万6,000人(5.2%増)
   15年〜19年の4年間で、年収200万円以下が14.4%増、年収1,000万円超が5.2%増となり、前述の私立大競争率と同じように、ここでも年収格差の拡大と二極化の様相が見て取れる。



   ある事柄の規模や特徴、動向などを知るうえで、まず、全体像を掴むことは重要であるが、その中身の実態をみることも大事である。
   先ごろ、鈴木恒夫・前文科相は、『中長期的な大学教育の在り方について』を中教審に諮問した(20年9月)。この中で、「人口減少期における我が国の大学の全体像について」を審議事項の一つに据え、将来の大学の"量的規模"などについての検討、議論を求めている。
   今や大学受験生の9割が入学を果たし、大学進学適齢期(=18歳)人口の5割が大学へ進学する「ユニバーサル型」段階を迎えている。
   しかし、一方では大規模校と小規模校、都市部と地方などの間で、格差の拡大と二極化の進展が急速に進んでおり、私立大の半数近くが入学定員割れを起こしている。
   「教育立国」を目指す我が国としては、高等教育の更なる拡充(量・質とも)を目指しつつ、「全体の規模」(「オモテの顔」)とともに、「個々の実態」(「ウラの顔」)も見落とさず議論することが望まれる。

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