学長特別インタビュー

「私たちはなぜ大学へ行くのか?」

明治大学 学長  納谷 廣美
様々な人と出会い
体験することで時代を超えて
輝き続けるものを見つけ
世界の人々のために
役立ててほしい

明治大学 学長 納谷 廣美

納谷廣美(なや ひろみ)
 1939年北海道旭川市生まれ。旭川東高校から明治大学法学部に入学。司法試験に合格後、東京大学大学院法学政治学研究科(民事訴訟法)を修了。法学修士。司法修習後弁護士登録。同時に明治大学法学部助手となり、講師、助教授を経て教授となる。2004年学長に就任。「外部評価に耐えうる大学」「世界に開かれた大学」を目指し、様々な改革を推し進め、2010年度一般入試で明治大学を志願者数日本一に押し上げた。

日本が直面する「第三の開国」

 世界が激変する中で、日本は「第三の開国」とも言うべき大きな岐路に立っています。
 言うまでもなく、明治維新という「第一の開国」では、欧米列強をモデル・目標にして、それに追いつき追い越せという政策をとってきました。その具体的表れが、日本の津々浦々に学校を作り、大学教育までを整備した「国民教育」と、それを背景とした「富国強兵」で、この結果、日本は、欧米列強を相手に世界戦争を行うまでになったのです。
 その後の敗戦で迎えたのが、「第二の開国」です。それまでのパラダイムが否定され、アメリカをモデル・目標にした民主主義国家へと国の方針が大きく切り替わったのです。高等教育もエリート育成から民主主義を支える市民育成へと変わりました。そして、日本は空前の経済成長を遂げ、経済大国の名をほしいままにすることになりました。
 しかし今、東西の冷戦の終結による多極化、リーマンショックをはじめとするアメリカ経済の不安定化などにより、日本を導いてくれたアメリカ型モデルが揺らいでいます。そして、これまでその影響下で独自性を出せないでいた様々な国家・民族の利害と主張が一挙に表に出て、それらに対し、面と向かわざるを得なくなったのです。これが「第三の開国」です。

世界が求める日本の役割

留学生年末懇親会の様子

留学生年末懇親会の様子

 アメリカやロシアといった超大国がいて、他の国はその政策に追随するという長く続いた冷戦の時代から、アメリカ一極主義へ。そして現在は、どの国も同じレベルで自分の主張を展開するフラット化の時代に入ったとも言えます。これは「多様化」と言い換えることもできます。
 こういう時代に日本がすべきことは、アメリカでもイギリスでもロシアでも中国でもない、日本独自のモデルを、世界の国々に提示することです。
 今、多くの国は、他国の軍事的・経済的影響から脱して、独自の発展の道を探っています。チュニジアやエジプトなどの市民革命、スーダン南部の独立などはその典型です。大国の支配・影響から外れることで経済的に苦しくなったとしても、自分たちの国の運命を自分たちで決めようとしているのです。
 日本という国は、明治維新以来、100年余かけて、それをやり遂げた国です。太平洋戦争では、人類の歴史で唯一かつ初めて原爆を体験しています。だからこそ、経済政策はもちろん、科学技術、豊かな自然環境作り、平和主義など様々な面で、日本は他の国々をサポートできるのです。
 宗教や民族の対立で戦争やテロが起き、流血が絶え間ない世界に、秩序ある安定した平和社会を築くにはどうしたらいいか、そのためにどういう人材作りをすればいいかを提案すること、これこそが日本の生きる道だと、私は考えています。

時代を超えて輝くものを見つける

 こうしたことを世界の国々、人々に提案するためには、世界のことはもちろん、日本のことも十分に学ばなければいけません。学んだ上で、それらを自分のものにして、自分だけの新しいアイディアに仕上げる。この作業を行う「場」が大学というところです。
 高校までに皆さんが行っている勉強は、今わかっていることを蓄積していくという作業です。この作業は、大学で自分独自の考えを創り出す基盤になるもので、非常に重要です。
 しかし、皆さんが高校までに学んできた知識はそのままで直ちに社会で役に立つというものではなく、中にはいずれ古くなって役に立たなくなるものもあります。大学に来て、時代を超えて輝き続けるものを見つけることが重要です。大学の役割はそれにつきます。
 1945年12月に東京大学総長となった南原繁さんは、かつて、「日本は戦争に負けたけれど、これからは学問を通して真理を探究し、世界の平和をつくる。それが日本の生きる道だ」と学生に向けて決意を表しました。
 大学とは、学問を通して真理を追究するところです。学問を通して、世界の国々の秩序と平和に貢献することが、大学で学ぶ者の使命と言っていいかもしれません。逆にこうした志のある人こそ、ぜひ大学で学んでほしいと思います。

自分だけの時間を作りじっくり考える

 今の時代に求められる人材は、変化に対応して、その中で自分がどんなことができるかを常に考え、行動できる人です。
 井の中の蛙であってはいけません。現在の世界がどういう世界で、その世界がどういう方向に向かっているかを絶えず考え、発信できる人間でなければいけません。
 そのために大事なのは、自分で考える習慣をつけることです。どんなに受験勉強が忙しくても、自分で考える時間をつくる。それはスポーツであっても、読書であっても、趣味であってもいいのです。ほかの人とは違う「自分だけの時間」を作り、じっくり考える。こういう習慣を高校生のうちからつけてほしいのです。
 それが大学で必ず役に立ちます。日本の国が他の国から尊敬されるために独自の文化や施策が必要なように、皆さんが他の人から一目置かれる存在になるには、他の人と違う個性が必要なのです。

しっかりとした「個」を作る大学

 明治大学は「『個』を強くする大学」をスローガンとしています。明治大学の建学の精神は「権利自由」「独立自治」ですが、それらは他者との共生・連携の中で「個を強くする」ことで得られるものです。
 明治大学は、身分制度が崩壊し四民平等の世の中になったときに、国を造る個人一人ひとりが、しっかりと自分の考えを持って発言できるような力を与えたいという志から創立された大学です。
 明治政府はプロシアという国をモデルに、一気に国家を造り上げようとしましたが、他方で、様々な問題を自分たちの問題として発言していける、しっかりとした人材も作ろうとしたのです。「個」がしっかりしなければ、組織も国家も確立できないからです。変化する社会の中で、自分の役割を考え、他者、社会に貢献できるような人生を送りたいと願う、そういう「個」を育てる場、それが明治大学なのです。
 明治大学には、しっかりとした「個」を作るという特質のほかに、世界の変化を見て取れる都心のど真ん中に大学が立地しているという特徴もあります。あるものを学ぼうとする場合、「その中心に行け」と言うのは昔から言われてきたことです。明治大学のある神田・御茶ノ水は昔からの学生街で、日本・東京の政治・経済・文化の中心に位置しています。一見、雑然とした中にも、日本はおろか世界の様々なものが流れ込み、カタチを変えて流れ出す。そういう「世界の今」に若いうちから触れることができます。それも、明治大学の大きな強みです。

多様な国際交流でグローバルな人材作り

 明治大学は今、大きく変わっています。国際日本学部をはじめとした新しい学部学科の創設、キャンパスの整備、最新の教育機器の配備、全学部統一入試などによる多様な人材の受け入れなど、目に見える改革のほか、少人数による語学教育、情報教育などを実施しています。
 また、これまで就職の強さで定評を得てきましたが、それに甘んずることなく、世界中の国々との結びつきを強め、協定校を増やすなどして、留学生の受入および本学学生の海外派遣を活発化させ、グローバルな人材を育成しようとしています。さらに、明治大学では、講義やゼミ、研究室で学ぶだけでなく、街づくりや地域づくり、ビジネスの現場などに学生が参加する様々な試みが行われています。
 明治大学は、このような幅広い取り組みのもと、新しい時代に相応しい人材を育成できる大学として、誇りを持って皆さんを迎えたいと思います。

インタビュー・文:古矢明雄(螢雪時代)
写真:長谷川博一

この記事は「螢雪時代(2011年4月号)」より転載いたしました。

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